上月くんのもう一つのお店は駅の反対側、昔ながらの店が軒を連ねる、いわゆるレトロな街並みで有名な通りにあった。小ぢんまりとした、カフェというより喫茶店という方がぴったりくる、どこか懐かしい感じの内装だ。

「前のオーナーさんから引き継いだんです。あんまり中は変えずに、この雰囲気を大事にしたくて」
「すごく落ち着く感じだよ。それに、こんな感じの喫茶店も今流行ってるよね」

わたしはそっとソファの背もたれに触れた。ビロードの質感が気持ちいい。常連さんや若い子まで、様々な年代のお客さんがいながら、それぞれの楽しみ方をしているようだった。

「他にもお店を持ってるなら、上月くんすごく忙しいんじゃないの?」
「どうだろう。お店回るの楽しいから、忙しいって思ったことはあんまりないですね」

 不意に、そういえば彼はご実家が資産家だったことを思い出した。なぜ公立校にいるのかわからないくらい大きな家で、高校生のわたしたちは疑問に思ったものだ。
「次男だし、俺、親父たちからは放任されてるんすよ」
だから学校だってどこでもよかったんです、なんてさらりと言っていた。

「先輩。ね、僕の話はいいから。朝比奈先輩の話、聞かせてください」