蔭山 莉子。三十五歳。無職。(主婦)

 これが履歴書に書くいまのわたし、全部だ。

 短大を出て地元の企業に就職。三年目に合コンで出会った銀行員の裕一と結婚して、社宅に住み始めた。初めはわたしも仕事を続けていたのだけれど、裕一の転勤が決まったのを機に、退職することにしたのが十二年前。

「働いてたら、家のことあんまり出来ないでしょ?だからこれでよかったんだよ」

 それなりに仕事を楽しんでいたわたしにとってはすこし寂しい話だった。でも、栄転の裕一に励まされるように言われて泣く泣く辞表を出したのだ。そのあとは、少しお洒落なイタリアンレストランでパートタイマーとして働いていたのだが、去年、そこが閉店してしまった。

 今では十二年前に会社を辞めたことを週に一回は後悔している。


『残念ながら、当社との条件と合わず、今回は採用を見送らせて頂くこととなりました。また機会がございましたら是非……』

 メールの本文を最後まで読まずにわたしは携帯をベッドに投げ出した。