「ひ、……ひ、さしぶり……デス……」
さっきまで感傷に浸っていたばかりだ。何だろうこのあまりのタイミングの悪さ……。タイミングいいのか悪いのかもわからない。
わたしはぎくしゃくとした動きで、かくかくと頷くしかできなかった。まるで、彼に恋焦がれていた高校生の自分に戻ってしまったように、わたわたと焦るばかりだ。
(ば、ばか……っ。わたしったら、いくつだと思ってるのよ。もう35歳だよ! 結婚してるのに、なにこの余裕のなさ……もう、自分がイヤになっちゃう)
心の中で思い切り自分を叱りつける。すうっと息を吸い込んで、目の前の男性に挨拶をした。
「ご、ごめんね。び、びっくりしちゃって……、ほんとに、上月くん、なんだよね?」
「僕こそ、めちゃくちゃ驚きましたよ。こんなところで……でも、何だか見覚えのある背中だなって…思ったんです」
彼は照れ臭そうに頭に手をやった。わたしは胸が痛くなった。
その仕草は、二十年経っても変わらないのか。
(ああ……。上月くんだ。懐かしい)



