不意に、背中に声がかけられた。
でも、「センパイ」という単語は今のわたしには遠すぎて、知らない誰かの言葉にしか聞こえなかった。ちょっと、懐かしいだけの単語。
わたしはそのまま歩き続ける。
「朝比奈センパイ!」
「……っ?」
ぶわりと夏の風が吹いた。スカートの裾がばさばさとはためく。
朝比奈はわたしの旧姓だ。びくりと肩が揺れて、踏み出した足が止まる。
「え……」
わたしはゆっくりと振り返った。「彼」だと半ば確信しつつ。
「失礼……。間違っていたら申し訳ない。朝比奈先輩ですよね。僕、上月です。坂宮高校一年後輩の」



