この街は、北のエリアが『オシャレ区域』として意外と有名だ。石畳が綺麗に敷き詰められ、北欧の街並みを再現したような感じだ。雑貨店も多く、可愛らしい店が多い。特に主婦に人気のエリアだ。
店を探してのんびりと歩いていると、遠くから少しぎこちない音がいくつか重なって流れてきた。
(あ……。トランペットの音だ)
そういえば近くには中学校がある。放課後の部活動の時間なのだろう。まだ入部したての部員が練習しているのか、不安定だけど、初々しい楽器の音が風に乗って流れてきた。さっきの話もあって、懐かしさで不意に胸がいっぱいになる。
(わたしも、めちゃくちゃ練習したなぁ)
あの頃はお盆とお正月以外、毎日部活があった。三年間一緒に過ごした部の仲間とは、クラスメイトよりも長く顔を合わせていたと思う。
わたしの中高は、ほぼほぼ部活で埋め尽くされていた。今はぱったりやめてしまったけれど、時々テレビで吹奏楽部の特集を見ると胸がきゅ、と痛くなるのだ。
楽器が上手くなりたいのと、上手にみんなとメロディを合わせたいのと、それと。
彼に、もっと、近づきたかった。
もっと、わたしを見てほしかった。
ぜんぜん届かなかった、わたしの気持ち。
甘くて苦しくて、でもいっつも彼の姿を探してた。
(……ヤダ。わたしったら、浸りすぎ……)
こんな街角で、ぽけっと昔のことを思い出しているのが急に恥ずかしくなってしまう。
慌てて肩にかけたバッグのベルトを握り締めた。そのとき。
「センパイ?」



