いままでにした、どんなキスよりも深いくちづけを、かつての後輩と交わす。
足元が、かくかくと震えた。熱情と、恋情が身体中を駆けめぐる。わたしは胸にしがみつくようにして、彼の唇を、舌を受け入れ続けた。
名残惜しげに離れては、またキスを交わす。何度も何度も、深く、浅く、気持ちを重ね合った。

やがて、余韻に浸るように、上月くんの胸に頬を寄せると、彼は満足げにまた、わたしの髪を撫でた。

「俺の家、今から来てください」
その誘いが意味するのはひとつだ。

わたしは、彼の手を握った。

「……上月くん」

胸がいっぱいになる。大好きだった人を、また好きになって、その想いが今度こそ通じたのだ。

そしてわたしは、気づいた。

「わたしも、大好き……でも、家に帰るよ」
「……なん、で?」

彼は子どもみたいにわたしを抱きしめた。

「今、あなたのところに行ったら、あの人たちと同じになっちゃう気がする……もう、同じかもしれないけど」

本当はわたしは今夜、初めから彼に抱かれるつもりだった。
けど、それは、裕一達への当てつけにすぎない。わたしにだって大切にしてくれる人がいるんだって、憐れんで欲しくなくて、彼に抱かれようとしたのだ。

自分が恥ずかしくて仕方ない。

大好きな上月くんの気持ちまで、わたしの勝手な都合で踏み躙ろうとしていたのだ。
もうこれ以上、なにかを壊したくなかった。

わたしは彼の額にそっと、くちづけた。

「ぜんぶ、終わらせてから、貴方のところにいきたいの」

彼にそう告げた。

「……貴女は、手を離すとすぐにいなくなる。だから、すごく嫌なんだけど」

彼はそう言って苦笑いした。

「でも、今度はちゃんと、僕のところに帰ってきてくださいよ」

わたしは、精いっぱい、微笑んだ。