あの、メール。

『結婚式の準備があるから予定が合わない』

わたしが、どぎまぎしながら返したやつだ。結婚することを暗に示した返事を送った。

「ま、あれで本当に振られたんですよね。貴女は別の男と人生歩き始めようとしてたんだから」

自業自得なんですけど、と彼は頭をかいた。まだ片腕でしっかりとわたしの肩を抱いたまま。

わたしは、目の前がぐるぐるとまわるのを感じた。
(それって、まさか……。ずっと、上月くんは、わたしのことを……?)

「でも、バツイチだって……」
「そう。僕も、自分の人生生きていこうとしたんですよ。きちんと家庭を作って、妻を愛して。でもね、うまくいかなかった。いつもどこか違う方を見てた。だから、彼女は僕から離れた。いまは、その男性と一緒にいます」

申し訳ないことをした、と言う。
「もう、二度と誰ともそういう関係にはならない、って決めてました」

彼はわたしの髪を一筋、大切そうに掬うとそっと唇をつける。
「そして、貴女にまた会ったんだ」


「どうしても知りたかった。いま、あなたは幸せなのかって」

先輩、いま、しあわせ?

夕陽の中での言葉がよみがえる。

「貴女が幸せだったら、諦められたのに。……そうじゃなかった。貴女の顔をみて、僕はまた、恋する重たい男に逆戻りしたんです。なんとしても絶対、そばにいるって。そう決めた」

背の高い彼が、わたしの肩にとん、と頭を乗せた。

「先輩、もう、どこにも行かないで。俺が、貴女を幸せにするから。手を伸ばしたら、いなくなるの、やめてください」
「こ、うづきくん」

いつも、自信ありげでスマートな表情の彼が、瞳を、声を、震わせている。壊れものにふれるように、わたしの唇を、指でなぞった。
「好きだ……」
引き寄せられるように、彼の唇が近づく。わたしは、目を閉じて、その甘い疼きを受け入れた。