「君ってほんとうになんにも出来ないんだね」

 眼鏡のフレームにくいっと指をかけながら夫の裕一(ゆういち)がそう言った。彼の視線の先にはすこし焦げてしまったまるいハンバーグが二つ、申し訳なさそうに白いお皿に乗っかっている。
 ソースをたくさんかけてごまかそうとしたのだけど、ひと口めを口にする前に目ざとい彼は気づいてしまったのだ。

「ごめ……ん。ちょっと、メールしてて……」

 わたしは謝りながら苦笑いした。ハンバーグは一応、わたしの得意料理だ。今日は本当に、久しぶりにちょっとだけ焦がしてしまった。でも、食べられないわけじゃない。ちゃんと味見もしたのだから、大丈夫なのに。

「でも、全然食べられるよ。ソースは美味しく出来てるから、ね」

 笑顔でサラダのボウルをテーブルに置いた。だが彼はハンバーグのお皿をぐいっとテーブルの向こうに追いやると、お箸でサラダをつつき始める。

「いらないよ、そんなの」

 君が食べなよね、とわたしをちらりと見てから、呆れたように「君ってさ、いったい、何年主婦やってるの?」と言ったのだ。