「未来、お前がいろいろ大変だったのは今聞いた。よく頑張ったな、スゲエな、素直にそう思うよ。でもな、それでも俺は言いたい。元気になって帰って来てから、もう9年経つのに、なんで今まで会いに来てくれなかったんだよって。」


「それは・・・帰って来てからしばらくは、まだ体調も本調子じゃなかったし、学校やバイトに追われて時間もなかった。それに・・・あなたはもう私なんかには手の届かないような存在になってたから・・・。」


「本気で言ってるのかよ!」


「えっ・・・?」


「お前にとって、俺ってその程度の存在だったのかよ!」


翔平の厳しい表情と口調に、未来は思わず目を伏せる。


「じゃぁ、俺に黙って消えた理由は?」


「それはさっきも言ったように・・・。」


「時間がなかったなんて、嘘だよな。」


「翔くん・・・。」


「あの時、LINEくれてたよな。さっきの話によれば、その時もう病院に居たんだろうけど。でも体調が悪くて、連絡もとれない状況ではなかったはずだ。」


「それは・・・。」


「お前のお母さんは家庭の事情って言ってたけど、それも嘘だったんだよな。」


「ごめんなさい・・・。」


そして沈黙が2人を包む。俯く未来をじっと見つめながら、翔平は彼女が口を開くのを待った。やがて


「自信が・・・なかったの。」


未来が小さい声で言った。


「えっ?」


「生きて帰って来る自信がなかったの。たぶんダメだろうって・・・そのくらい難しい手術だったんだよ。」


「未来・・・。」


「翔くんに、恵たちにも心配掛けたくなかった、不安にさせたくなかった・・・そして、私が死んでしまった時、悲しませたくなかった。本当は最後にみんなに悪態をついて、嫌われて、サヨナラしようと思った。でも結局出来なかった、それだけの元気もなかったし、それ以上に翔くんに嫌われて死んで行くことに、やっぱり耐えられなかった。だからせめて・・・黙って消えようって。そしたらみんな諦めてくれる、私のこと忘れてくれるって・・・。」


「そんなわけねぇだろ!」


「私だって、いっぱいいっぱいだったんだよ!確かに生まれてから病院をずっと出たり入ったりしてたけど、時期が来れば手術をして、元気になれますって言われてたのが、実は誤診でしたって言われて、15歳でいきなり死を突き付けられて・・・怖かったんだよ。どうしていいのか、わからなかったんだよ!」


怒る翔平に、ついに未来も感情を露にする。またしても気まずい沈黙が流れる中


「あの、高城選手。そろそろお部屋に戻られる時間です・・・。」


遠慮がちな声がする。迎えに来た看護師が、2人の様子にずっと声を掛けそびれていたらしい。我に返って、彼女を見たあと


「すみませんでした。それじゃ失礼します、高城選手。」


一礼したあと、未来は足早にその場を後にする。


「いいんですか?未来をこのまま行かせて。」


心配そうな看護師の言葉に、翔平はなにも答えず、未来の後ろ姿を見送るだけだった。