「その後のことを聞いてもいいか?」


そう言った翔平に、1つ頷いた未来はまた話し出す。


「差し当たって私が直面したのは学校の問題。小さい時から入退院を繰り返して来て、また3年間日本を離れてたこともあって、私には齢相応の学力がなかった。でもなんとか定時制高校の2年生に編入させてもらって、昼間は働きながら、卒業できた。本当はね、私、お医者さんになりたかったんだ。だけど、私の長年の治療費のお陰で、家にはそんな学費を負担することは出来なかったし、それ以前に私に医大に行ける学力もなかったから、諦めるしかなかったんだけど、それでも自分の命を救ってくれた医療の現場に立って、少しでも恩返しがしたかったから、私は看護師の道に進むことにしたの。看護師になるには、3年制専門学校が一番早くて、同級生たちから遅れを取っている私はそっちへ進むつもりだったんだけど、視野を広げる意味でも1年の遠回りにはなるけど、絶対に4年制大学の方がいいって薦められて、我が儘を言ってそちらを選んで、そのまま通ってた大学の系列であるこちらの病院にお世話になって、今日に到って・・・ます。」


未来の話を翔平はじっと聞いていた、そして話し終わった未来の顔を彼は改めて見た。その視線に気付いた未来は


「翔くんの活躍はずっと見てたよ。ちゃんと自分の夢を、目標を果たして凄いなって思ってた。そんな翔くんの活躍に私も力を貰ってた、ありがとうね。今回のW杯は残念な結果になっちゃったけど、翔くんには4年後がある。リハビリは大変だけど、翔くんならきっと乗り越えられる。だから・・・これからもそんな翔くんを応援してるから。」


と言うとフッと微笑んだ。だが


「4年後なんかねぇよ。」


その言葉に応えた翔平の口調は吐き捨てるようだった。


「えっ?」


ビックリしたような表情を浮かべた未来に


「俺、決めたんてたんだ。今回の大会が最後の代表だって。」


翔平は厳しい表情で告げる。


「どうして・・・?」


「4年後の自分が、今以上のパフォ-マンスを出せる自信がなかったから。W杯って生半可な力や覚悟じゃ立てない舞台だって4年前に実感したから。」


「翔くん・・・。」


「それにさっき、未来は俺のこと、自分の夢を果たして凄いって言ってたよな。」


「うん・・・。」


「確かにそんなこと、昔お前に言った記憶はある。そう、俺はサッカ-選手にガキの頃からなりたかった。Jリーガ-になって、チ-ムのエースストライカ-になって、日本のエースストライカ-になって、W杯に出るって。そう俺は確かにその夢は果たしたのかもしれない。でもな、俺がサッカ-選手になりたかった、なった一番の理由はある時から変わったんだ。」


「変わった?」


「ああ。俺が有名なサッカ-選手になれば、いつか・・・突然俺の前から姿を消した人にもう1度会えるんじゃないかって。」


翔平がそう言い切ると、未来は息を呑んだように彼を見た。