見上げれば、天気は快晴。気温も暑くもなく寒くもない。身体を通り過ぎる風が心地よい。そしてこうして眺める景色は悪くはない。


確かにこうやって病院の屋上から、景色を何度も見て来た。だけど、それは自分が入院していた時よりも、未来の付き添いでやって来た方が遥かに多かった。


(俺が好きだったのは屋上から景色を眺めることなんかじゃない。屋上で未来と2人で過ごす時間が、俺にとって何ものにも代え難いくらい大切で素敵なものだったんだ。)


改めて、翔平は気が付いていた。


未来と再会してからもう2週間近くが経つ。しかし、あれから未来はただの1度も自分の前に姿を現すことはなかった。患者と看護師という立場の違いこそあれ、今2人は同じ病院の建物の中にいるのに、だ。


逆にこちらから、未来に会いに行こうと何度も考えた。不自由な身体ではあるが、それは決して不可能ではない。


しかし病院側からは、不必要に出歩くことは謹んで欲しいと強く要望されていた。


不特定多数の人間が集まる病院の特性もあり、パパラッチが紛れ込んで来たり、他にもどんな不測の事態が起こらないとも限らないというのが、その理由だった。


(全く不自由なもんだな。)


翔平は思わず苦笑いを浮かべる。が


(未来が俺との接触をあれ以上、望んでいないのだとしたら、それはもう、どうしようもないことだからな・・・。)


釈然としない気持ちはあるが、そんな諦めの思いも芽生えていた。


(とりあえず、今はここで日光浴でも楽しむか・・・。)


そんなことを考えていると


「翔、くん・・・。」


遠慮がちに自分を呼ぶ声が聞こえて来る。その呼び方と声で、それが誰かを一瞬で悟った翔平は、慌ててその声の方を振り向いた。


「未来・・・。」


そこに、間違いなく待ち人が立っていた。本当に遠慮がちに、おずおずと、そんな様子の未来に


「来てくれたのか?」


と呼び掛ける翔平。


「今日、仕事お休みだから。病室に行ったら、ここだって聞いて。」


と言った未来は、すぐに俯き、そして


「ごめんね。」


と消え入りそうな声で言った。


「えっ?」


「今更ノコノコ現れて、迷惑だよ、ね・・・。」


「バカなこと言うな!」


「翔くん・・・。」


「俺がお前のこと、どんなに探したか、どんなに会いたかったか、本当に未来には、わかんねぇのかよ!」


思わず声を荒げる翔平に


「ごめんなさい。」


未来は頭を下げる。


「とにかく。」


「えっ?」


「こっちに来いよ。この前も言ったけど、今は俺の方から行けねぇんだから。」


そう言って、真っ直ぐ自分を見る翔平に、一瞬躊躇った未来だったが、すぐに意を決したようにゆっくりと翔平のもとへ歩み出した。