その日、午前中のリハビリを終え、昼食を摂った後、翔平は屋上に向かった。


「屋上で何をなさるんですか?」


車椅子を押してくれている看護師に聞かれ


「いや、特に。ただ、病院の屋上から眺める景色が昔から好きなんで。」


と答える。


「昔から結構入院とかされたんですか?」


「お陰様でこれまで病気には無縁で来てるんだけど、商売柄、ケガで何度か入院を余儀なくされて。それに・・・。」


ここで翔平は言葉を切った。


「それに?」


「いや、日がな一日、ベッドに横になってなきゃならないと、やたら外が恋しくなるから。」


看護師の問いを、そんな言葉で繕っていると、エレベーターの扉が開いた。屋上に出た翔平は、まぶしさにフッと目を細める。


「秋晴れのいい気候になりましたね。」


看護師がしみじみと言って来る。


「今日みたいに天気がよくて、もう少し寒くなって、空気が澄んで来ると、富士山がここから綺麗に見えるんですよ。」


「そうなんだ、見てみたかったな。」


呟くように答えた翔平に


「じゃ、30分くらいしたら、また迎えに来ますね。」


看護師は告げる。


「お手数掛けて、すみません。」


「とんでもないです、じゃ。」


と行きかけた彼女に


「あっ。」


翔平が呼び止めるように声を掛けた。


「はい。」


「あの、みら・・・いや藤牧さん、今日出勤かな?」


「藤牧?看護師の藤牧未来ですか?」


「うん。」


「ごめんなさい。彼女とは所属が違うんで、全然わからないです。未来とお知り合いなんですか?」


「中学時代のクラスメイトなんだ。」


「あ、そっか。恵先生とクラスメイトでしたもんね。じゃ、未来ともそうだってことですよね。」


「本多から彼女もこの病院にいるって聞いて懐かしくて。もし彼女に会ったら、高城がよろしくって言ってたって伝えておいてよ。」


「わかりました。でもいいなぁ、未来も恵先生も高城選手とクラスメイトだったなんて。じゃ、また後ほど。」


そう言って笑顔を見せると、看護師は足取りも軽く立ち去っていく。その後ろ姿を見送りながら、翔平はひとつため息をついた。