「お待たせ。」


「お疲れさま。」


そんな言葉を交わしながら、翔平は席に着いた。


「アルコ-ルはどうする?」


「今日は止めとくかな。酒は3日後の勝利の後に浴びるほど飲むつもりだから。」


「なるほどね。」


翔平の言葉に笑顔を見せたその女性の名は西園寺朱莉(さいおんじあかり)。今回のサッカ-日本代表チ-ムの宿舎になっているここ「ハイルングホテル東京」を始めとしたアーバンリゾ-トホテルを世界各地に展開する西園寺グル-プ当主の姪である。幼い頃に事故で両親を亡くした朱莉は、父の弟である叔父に引き取られ、実の娘同様に育てられて、現在に至っている。


そして、爽やかな容姿とは裏腹に、いやその容姿ゆえにか、これまで女優やモデル、女子アナ、果てはドイツ某企業ご令嬢などと幾多の浮名を流して来た翔平の現在の恋人である。


「朱莉のお陰で、フィットネスル-ム貸し切りにしてもらって、気兼ねなく汗を流せて、さっぱりしたよ。」


「そう、ならよかった。」


「さすが、西園寺のお嬢様の威光は凄いな。」


「止めてよ、私はご存じの通り、お嬢様じゃないから。でも叔父に頼めば、そのくらいのことはお安い御用よ。」


「ありがとう。それにここのレストランの席も・・・いい眺めじゃないか。」


「料理も期待してもらっていいわよ。」


「そうだろうな、まぁ楽しみだ。」


実際に運ばれて来た「シェフのおまかせコース」はフランスの3つ星レストランで修業した料理長が腕によりをかけた逸品が並んだ。その絶品の味を楽しみながら、2人の会話は弾む。どこから見ても、仲睦まじいナイスカップルの姿だった。


最後のデザ-トまで堪能し、2人がスプ-ンを置くと、料理長が姿を現した。


「本日はありがとうございました。お味はいかがでございましたか?」


「はい。どれも素晴らしいお味で・・・堪能させていただきました。」


「とても美味しかったです、ご馳走様でした。」


「なら安心いたしました。それではごゆっくりお過ごし下さいませ。」


翔平と朱莉の答えに、料理長はホッとした表情を浮かべると、一礼して去って行く。


「プロだよな、当たり前だけど。」


「そうだね。」


「俺も・・・負けねぇように頑張らねぇと。」


「翔平・・・。」


「俺を信じて待っててくれたチ-ムメイト、監督、サポーター・・・自分が期待されてること、やらなきゃいけないことはわかってる。あと2日で完璧に仕上げて見せる。見ててくれ、朱莉。」


「うん。」


翔平の言葉に、朱莉は笑顔で頷いた。