夏休みがあっという間に過ぎて行き、2学期が始まって間もなく、翔平は母親と共に担任に呼び出された。


何事かと緊張して面接室に入ると、担任とサッカー部の顧問が待っていて


「翔平くんに、東松山高校から勧誘の話が来てます。」


担任が2人に告げた。


「えっ、俺にですか?」


翔平が驚きの声を上げる。東松山高校は、埼玉県下でも、サッカー強豪校の1つに数えられていたからだ。


「6月の大会でのお前のプレーを先方の監督さんがご覧になったそうで、是非ウチにとのお話だった。あそこなら、サッカーだけでなく、勉強の方の指導もしっかりしてるし、お前の自宅からも通いやすい。」


「翔平くんにとっては、いいお話だと思いますが、いかがされますか?」


担任の問いに


「お願いします!」


「ちょっと、一応お父さんにも相談して・・・。」


慌てて窘める母親のことなど、意にも介さず


「先生、よろしくお願いします!」


翔平は頭を下げる。結局さすがに、その場では決まらなかったが、一晩家族で相談して、正式に返事をすると、あとはトントン拍子だった。


(こんなんなら、もっと早く言ってくれれば、夏休みにあんな勉強三昧させられなくても済んだのに・・・。)


そんな贅沢なことを思っていた翔平だったが、話が決まると、直ちに未来に報告に行った。


「やっぱり翔くんは凄いんだね、おめでとう。」


満面の笑みで祝福する未来に


「おぅ、ありがとうな。俺、頑張るからな。」


得意満面の表情を隠さずに翔平は答える。


「うん、頑張ってね。」


頷いた未来だったが、すぐに表情を改めると


「実はね、翔くん。私の方も話があるんだ。」


そう言って、やや固い表情で翔平を見た。


「どうしたんだ?」


訝しげに問い返した翔平に


「私、転院することになったの。」


未来は言った。


「どうしたんだよ、急に?」


驚く翔平に


「勧めてくれる人がいて。その病院は東京の郊外にあるんだけど、ここよりも大きな病院で、設備も最新鋭のものが揃ってるし、心臓外科のいい先生が最近、着任したんだって。」


「そうなんだ。」


「それになにより魅力的なのは、その病院、系列に中学高校を持ってて、私のような身体の弱い生徒も積極的に受け入れてくれるんだ。今の院内学級は、現状高校生を教えられるような体制が正直弱くて、困ってたんだけど、そこならその心配もない。私のように、出席日数が足りなくて、勉強が遅れてしまっている生徒へのフォローも充実してるんだ。だから私でも普通の高校に通えるんだよ。」


未来は表情を輝かせて言った。