出会ってから、早いものでもう2年が経つ。入退院を繰り返す日々の中で、しかし未来が見せる表情は常に明るく、そしてネガティブな言動はまず見せない彼女だった。


なのに今、未来は初めてと言ってもいいくらいに、自分に不安を訴えて来た。言うべき言葉が見つからずに黙っている翔平に


「小さい頃から、同じことの繰り返し。手術だって、何度も受けたけど治らない。このままなら、いずれもっと難度の高い手術を受けなきゃならないんだけど、今の私の体力じゃ、まだそれに耐えられないからって先送りされてるの。私だって、翔くんや恵のように、思いっきり身体を動かしてみたい。翔くんといろんな所へ行ってみたい。でもそんなの夢のまた夢。自分の未来が見えないんだよ。翔くん!」


「・・・。」


「不安なんだよ、私、これからどうなるんだろうって。手術は先送りされて、学校にも満足に行けなくて、これからも私は、ずっと病院でひとり寂しく、みんなが先にどんどん進んで行くのを眺めてるしかないのかなって。私、本当は『未来』っていう自分の名前が大っ嫌いなんだよ!」


涙ながらに未来がついに、そう叫ぶように言った時、翔平は思わず息を呑んだ。


そして沈黙が流れる。どのくらい経ったのだろう。


「未来。」


翔平が呼び掛ける。


「初めて会った時のこと、覚えてるか?」


「えっ?」


「他でもない、この病院の屋上だったよな。あの時の未来は、真剣な表情でフェンス越しに景色を見ていた。そして迎えに来た看護師さんに『未来ちゃん』って呼び掛けられて、振り向いた時のお前の顔は弾けるような笑顔で本当に輝いててさ。」


「・・・。」


「俺は目を奪われた、そして思ったんだ。『あの子、未来って言うんだ。なんて素敵な名前だろう、彼女にぴったりの名前だな。』って。それからお前のことが気になって、また会いたくて、探して・・・実際に会えて、話せて、友だちになれて、クラスメイトにもなれて・・・俺は本当に嬉しかった。そして、病気なのに、いつも明るくて、前向きなお前をスゲェなって思ってた。尊敬すらしてた。でも・・・それは違ってたんだよな。」


「翔くん・・・?」


「ごめんな。」


そう言うと、翔平は頭を下げた。


「なんで、翔くんが私に謝るの?」


その姿を見て、未来は思わずそう口にする。