未来はそのまま、夏休みを病院で迎える羽目となってしまった。


終業式を終え、帰宅した翔平は部屋に入り、塾の夏期講習のスケジュ-ル表を改めて眺めて、思わずため息を吐いたが、気を取り直して外出の準備をする。受験勉強が本格化して、勉強三昧の日々が始まる前に未来の顔を見る為だった。


病室に顔を出すと、未来は笑顔で翔平を迎えた。その笑顔を見て、翔平は内心ホッとしていた。部活は引退したが、時間が取れず、なかなか見舞いにも来られなくなっているのに、せっかく訪ねても未来の体調が悪く、寝顔を見て帰るだけということも増えて来ていたからだ。


「未来、どうだ、調子は?」


「うん、まぁまぁかな・・・。」


「そっか。」


「ところで翔くん、1学期の成績、どうだった?」


「それ、俺に聞く?」


「気になるんだもん。」


「よくもなく悪くもなくってとこかな。まぁ部活もなくなったし、これから気合い入れて勉強するよ。」


「恵は?」


「本多は文武両道だからな。私はあんたと違うんだからって、なんかディスられた。」


そう言って、苦笑いをした翔平の顔を未来は少し見ていたが


「そっか。みんな頑張ってるんだね・・・。」


そう言った彼女の表情には、陰りがあった。


「未来・・・。」


普段あまり見せないその表情に、翔平は一瞬、息を呑んだ。


「なにかあったのか?」


思わずそう口にしてしまう。心配そうな翔平に、未来は静かに首を振る。だがその表情は、明らかにいつもの彼女とは違っている。


「未来。」


呼び掛ける翔平の顔を、少し見ていた未来は


「試験の結果が返って来たんだ。」


意を決したように口を開いた。学校側の配慮で、未来は期末試験を病院で受けていた。


「はっきり言って、ボロボロだった。当たり前だよね、授業をまともに受けてないんだから。院内学級の先生は一所懸命に面倒見てくれてるし、翔くんや恵も忙しい中、私の為に学校からいろいろ課題を持って来てくれる。だけど、結局体調が悪くてさ、院内学級も休みがちになっちゃってるし、課題もこなせないんだよ、ただでさえ、高校受験に向けてカリキュラムが難化しているのに、全然間に合わないんだよ!」


そう言って、悲し気な視線を翔平に向ける未来。


「高校受験まであと半年だよ。翔くんだって、部活引退して、勉強に本腰入れて・・・でも私はこうやってずっと病院のベッドの上で、みんなに置いて行かれて・・・今のままじゃ、私の行ける高校なんて、どこにもないよ!」


「未来・・・。」