未来の出席日数は明らかに足りなかったが、義務教育の中学では、そのことが進級の妨げになることはなく、未来は翔平たちと一緒に3年生になった。


翔平や恵と言った親しい面々と、また同じクラスになり、3年目の中学校生活をスタ-トさせた未来。体調はこのところ安定しており、相変わらず翔平と一緒に登校し、教室では恵たちと賑やかに会話を楽しむ日々。だが、最高学年となった彼女たちに待ち受けているのは、来春の受験だった。自らの進路に頭を悩ませながら、その一方で部活動の集大成の時期も迎えようとしていた。


未来は体調の関係で、部活には入らなかったが、翔平はサッカ-部、恵は陸上部に所属。特に翔平はキャプテンとして、下級生を引っ張らなければらない立場になり、自身にとっては中学最後の試合となる6月半ばの地区大会に向けて、練習の日々を送っていた。


5月下旬の中間考査、6月頭の体育祭も終わり、地区大会を2日後に控えた日。練習が休みだった翔平は未来に誘われ、学校帰りに近所の神社に立ち寄った。一緒に今度の試合の必勝を祈願しようと言うのだ。


神前に並んで立ち、神妙な表情で参拝を済ませた2人。思えば、未来の体調や翔平の部活の忙しさもあって、学校以外の場所へ、2人で出掛ける機会などないままに来た。最後に一礼して、神前を離れた2人は


「未来、一緒にお参りしてくれてありがとうな。」


「うん。」


そんなことを言い合いながら、恥ずかしそうに、そっと笑顔を交わした。


「じゃ、行こうか。」


2人きりを意識して、翔平が少しぎこちなく切り出すと


「翔くん、ちょっと待ってて。」


そう言って、未来は翔平から離れて行く。トイレかなと思って、待っていると


「お待たせしました。」


すぐに戻って来た未来がそっと差し出したその手には、お守りが握られていた。


「未来・・・。」


「ここの必勝のお守りはご利益抜群って有名で、プロスポ-ツ選手もよくお参りに来るんだって。だから・・・これを身に着けて、明後日の試合頑張ってね。」


笑顔で言った未来に


「未来、ありがとうな。俺、絶対に勝つからな、約束する。」


翔平は力強く誓って見せる。


「うん、私も全力で応援するから。翔くん、頑張ってね。」


そう言った未来は、しかし当日、試合会場に現れることはなかった。お参りの後、翔平に送られ、自宅に戻った未来だったが、その夜に倒れ、入院を余儀なくされてしまったからだ。


(未来は俺の為に無理をしてたんだ。なんで気が付いてやれなかったんだ・・・。)


翔平はほぞを噛んだ。試合に勝った喜びなど、みじんも感じられなかった。