「これで今回の代表チ-ムの全ピースが揃った。このメンバ-で、3日後の試合に勝って、自力でW杯出場を決める。それだけの力があるチ-ムだと、俺は確信している。」


自らも2回のW杯出場経験のある松前は、落ち着いた表情で選手たちを見渡し


「全体練習は明日明後日と2日間しかないが、お前たちはそれが不安材料になるレベルの選手じゃない。あと2日あれば十分だ。今日はゆっくりと英気を養って、明日以降に備えて欲しい。以上だ。」


簡単に訓示を終えた。そのあとは、スタッフから明日以降の流れの確認等があり、ミーティングは30分程で終了した。その後、改めて松前監督に挨拶をした翔平が、彼の側を離れると待ちかねたように、チ-ムメイトたちが翔平を取り囲む。


「なぁ、あんまり心配掛けるなよ。」


「本当にもう大丈夫なのか?」


「ああ。それは明日、グラウンドでみんなの目で確かめてくれ。」


自信たっぷりの翔平の言葉に、チ-ムメイトたちの表情に安堵の色が浮かぶ。攻撃の要であり、チ-ムのムードメ-カ-でもある翔平の存在が、チ-ムに不可欠なのは、この場の誰もがわかっていることだった。


そのあと、しばらくは交歓の輪が続いていたが


「じゃ、そろそろ行くわ。これから地下のジムで少し汗流して来る。」


と翔平が言い出すと


「えっ?マジかよ。大丈夫か?」


心配する声が上がる。


「大丈夫だよ、そんなにハ-ドにはやらないし。さすがに半日飛行機の中だったから、ちょっと発散したいんだ。」


「なるほどな。で、夕飯はどうするんだ?」


「バカ、そんな野暮なこと聞くな。」


そんなチ-ムメイトのやり取りをニコニコしながら見ていた翔平は


「じゃ、明日からまたよろしくな。」


と言って、部屋を後にする。


「やっぱり翔平がいると、チ-ムの雰囲気がパッと華やぐな。」


「本当ですね。」


キャプテンの長谷誠司(はせせいじ)の言葉に、横にいる選手は大きく頷いていた。


その後、言葉通り、1時間ほど身体を動かした翔平は、部屋に戻って、シャワ-を浴び、着換えると、今度はこのホテルの最上階にあるレストランへと足を運んだ。


翔平が姿を現すと


「いらっしゃいませ。すでにお待ちになられています。」


ボ-イが声を掛ける。美しい夜景が広がる窓際の席で、翔平に手を振っていたのは、先ほど空港で彼と話していた女性だった。