そんな穏やかな時間が途切れた。未来が倒れたのだ、夏休みもあと数日を残すのみという時だった。


知らせを聞いた翔平が、慌てて病院に駆けつけると、未来は多くの管を繋がれ、病室のベッドに横たわっていた。完全に1年前の彼女の姿に戻ってしまっていた。


翔平が近付くと、未来は静かに眠っていた。


「未来・・・。」


翔平がそっと呼び掛けると


「このところ、ずっと調子がよかったから、私たちもちょっと油断してしまっていたかもしれないわ・・・。」


景子の言葉に、翔平は複雑そうな表情で頷いた。それでも、この時は3週間ほどで退院が出来た。しかしひと月足らずで再び入院。


中学生は勉強に部活にと忙しかったが、それでも翔平は時間を見つけて、病院を訪れた。翔平の顔を見ると、未来は本当に嬉しそうな表情になる。


「勉強、ちゃんとやってるか?」


「うん、この前も恵が来て、ノート貸してくれたし、院内学級の先生も詳しく教えてくれるから大丈夫だよ。」


もともと病院でも明るい表情の未来だが、以前と違い、翔平だけでなく、恵や学校の友人も訪ねて来て、退屈はしてないようだった。


「そう言えば翔くん、もうすぐ試合だよね。どう調子は?」


「絶好調だよ。2年生では唯一レギュラ-に選ばれたんだぞ。」


「そうなんだ、凄いね。」


そう言って表情を輝かせた未来は


「あ~ぁ、私も応援に行きたかったなぁ。」


一転、残念なそうな表情を浮かべる。


「俺も残念だけど、試合はこれで終わりじゃないんだから、そんなにガッカリするな。」


「でも・・・。」


「その試合、父さんがビデオ撮ってくれるって言ってるから、あとで未来も見てくれよ。」


「本当?楽しみだな。翔くん、頑張ってね。」


「ああ。」


そう言って、笑顔を交わした2人。


そして当日、見事にワンゴ-ルを決め、得意満面でビデオを持って、病院を訪れた翔平。そのシーンを見た未来は拍手をすると


「やったね、翔くん。翔くんなら絶対ゴールを決めると思ってたんだ。」


「ありがとう。」


「でもやっぱり生で見たかったなぁ。次の試合は絶対応援に行くからね。」


と笑顔で言っていた未来だったが、結局、そのまま2学期を棒に振ることになった。年末、年始の一時帰宅を挟んで、未来が退院、学校に復帰した時には、既に3学期も半ばが過ぎてしまっていた。