「翔くん、あんまり早足で歩かないで。まだ・・・シンドイよ。」


スタスタと歩を進める翔平に、未来が声を掛ける。その声にハッと足を止めた翔平は


「す、すまん。」


慌てて、歩を緩める。


「ちゃんと私の横を歩いて。」


やや膨れながら言う未来に


「わかった、ごめんな。」


翔平は素直に謝る。それを見て


「じゃ、行こ。」


ニコリと微笑んだ未来に


(なんだよ、あんまりドキドキさせねぇでくれよ・・・。)


気遣いが足りなかったのは認めるしかないが、正直未来の可愛さに、照れ臭さを隠せなくなって、つい早足になってしまった。翔平は心の中で焦っていた。


その後は、並んで歩き出した2人は仲良くしゃべりながら学校に向かったが、だんだん未来の口数が少なくなって来る。久しぶりの登校、まして進学早々に入院を余儀なくされた未来は、親しい友人もまだいない状況だった。


「翔くん、教室まで一緒に来てくれる?」


「ああ、最初からそのつもりだよ。」


緊張を隠せなくなって、思わずお願いすると、笑顔で翔平は答えてくれた。その笑顔に未来もホッとしたように表情を緩めた。


そして校門を潜り、校舎に入る。仲良く肩を並べて歩いている2人の姿は、当然他の生徒たちの耳目を引いた。


「おい翔平、その隣の可愛い子、誰だよ?」


「転校生か?」


友人たちが目を丸くして尋ねてくる。


「バカ、違うよ。」


そんなこんなやり合っているうちに、2人は未来の教室に前に着いた。


「翔くん・・・。」


「ここから先は1人で入るんだ、大丈夫か?」


「う、うん・・・。」


緊張の面持ちで、未来は教室に入る。クラスメイトたちはさすがに未来の顔を見知ってはいたが、長らく欠席を続けていた彼女の登場に、一斉に視線を注いだ。怯んだ様に立ち止まった未来を見て


(やべっ・・・。)


焦った翔平だったが、ふと小学校時代のクラスメイトだった本多恵の顔が目に入り


「本多。この子、ずっと入院してて、久しぶりの登校で緊張してるんだ。面倒見てやってくれよ。」


と声を掛けていた。突然のことに、一瞬驚いた恵だが、すぐに頷くと


「わかった。藤牧さん、お帰り。」


とっさに未来に駆け寄ると、笑顔で話し掛けた。


「う、うん、ありがとう・・・。」


戸惑いながらも恵に声を掛けられ、ホッとしたように答えた未来。


「藤牧さんの席、私の1つ後ろだから。一緒に来て。」


恵はそう言うと、未来の手を引いて席に向かう。


(とりあえず、ちょうどよかった。本多、頼んだぞ。)


その様子を見て、安心した翔平は、その場を離れ、自分の教室に向かう。そして中に入った途端、友人たちに囲まれ、あれこれ説明を求められたのは言うまでない。