「ダメじゃない、1人で勝手にこんな所に来ちゃ。熱中症にでもなったらどうするの?」


「すみません。」


「さ、帰りましょう。」


「はい。」


素直に頷いて、未来と呼ばれたその少女は看護師と一緒に歩き出した。すると、それまで横顔しか見えなかった彼女の表情が一瞬だったが、初めて正面に見えた。


(可愛い・・・。)


翔平はそう思った。だけどそれ以上に、彼女の青白い顔色が印象に残った。その後ろ姿がエレベ-タ-に消えていくまで、ボ-っと見送っていた翔平の耳に


「もういいでしょ。そろそろ帰りましょ。」


もう限界と言わんばかりの母親の声が聞こえて来て


「うん、ありがとう。」


翔平は素直に頷いた。


病室に戻り、ベッドに横たわった翔平だったが


(可愛い子だったな、俺と同い年くらいかな?いや、年上かもしれない・・・。)


心の中では先ほどの少女のことばかりを考えていた。一瞬だけ、翔平の目に映った少女の顔は美しくも儚げで、そのせいか彼の目には、少女のことが自分より大人に見えた。


(どこの階に入院してるんだろう?なんの病気なのかな・・・?)


そんな取り止めのないことをいろいろ考えながら、翔平はその日を過ごした。


翌日、あまりいい顔をしない母親に、むりやり頼み込んで、翔平は昨日と同じ時間に屋上に行った。少女に会えるかもしれないと思ったからだ。だが、彼女は現れなかった。その翌日も同じように行ったが、やはり会うことは出来なかった。


3日目、ついに屋上の暑さに音を上げた母親が


「今日は院内学級のイベントに参加するから、行くよ。」


と有無を言わさずに、翔平を引っ張って行った。


長期入院が必要な為、在籍する学校に登校出来ない児童、生徒の学習や生活を支援する為の院内学級は、設置する病院が徐々にではあるが増えて来ている。が、翔平は入院時期が夏休みであり、かつ骨折が原因の入院で、退院の見通しもはっきりしている為、参加を申請していなかったのだが、この日はたまたまオープン参加のイベントデ-だったので、顔を出すことにしたのだ。


翔平が部屋に入ると、20人ほどの小中学生が顔を揃えていた。こんなにいるんだと、内心驚いていると


「未来ちゃんは欠席?」


というスタッフの声がして、翔平はハッとその方を振り向いた。


「うん、あんまり調子よくないみたい。」


「そっか・・・じゃ、始めようか。」


(あの子もここに通ってるんだ。でも休みか・・・。)


翔平は残念に思っていた。