それは、今から14年前の夏。


「ア~ァ、つまんねぇ。せっかくの夏休みだっていうのさ。」


病院のベッドで、少年は暇を持て余していた。


「仕方ないでしょ、あんたが悪ふざけしたのがいけないんだから。自業自得とはまさにこのことよ、少しは反省しなさい。」


「は~い。」


傍らの母親に小言を言われて、首をすくめた少年は当時13歳、中学校1年生の高城翔平だった。小1から始めたサッカ-にはまり、この夏もグラウンドを元気に走り回るはずだった翔平の楽しい夏休みの予定が一変したのが、休みに入ってすぐのケガ。左足首の複雑骨折で即入院そして手術。全治1か月の診断で、現在彼はギブスをガッチリはめられ、ベッドから動けない状況だった。


(サッカ-だけじゃない、プールもキャンプも夏祭りも、み~んなパ-。俺は世界一不幸な少年だ・・・。)


翔平は心の中で、嘆いていた。とにかく患部の固定の為、風呂にも入れないまま数日。ようやく松葉杖か車イスでの移動許可が出て、翔平は気持ちだけは勇躍、ベッドから降り立って、車イスに座った。


「どこに行きたい?」


母親に聞かれて


「屋上!」


と即答した翔平。


「大丈夫?暑いよ。」


「平気だよ、とにかく外に出たい。」


夏の暑い光が無性に浴びたかった。息子の願いに頷いた母は、車イスを押し始めた。エレベ-タ-に乗り、屋上に出ると、空は雲1つない快晴。夏の容赦ない日差しが、照り付けている。


「暑!」


そう言って、顔をしかめた母親に対して、翔平は思わず大きく息を吸い込んだ。


(気持ちいい・・・。)


暑さなんて、全く気にならなかった。1週間ぶりの外の空気が、ただただ翔平には心地好かった。


「母さん、あっちのフェンスの方に連れてってよ。」


「え~、日焼け止め、塗ってないんだけど・・・。」


文句を言いながらも、結局は息子のおねだりを聞き入れて、母は車イスをフェンス際まで押して行く。そして、ここから眺める周囲の景色は、予想以上に鮮やかに翔平の目に映った。


物珍し気に、キョロキョロと周囲を見回していた翔平だったが、やがてこの屋上にもう1人、誰かいるのに気付いた。


(女子・・・?)


翔平から少し離れた所に立っていた、その少女は、同じようにフェンス越しに眼下に広がる景色をじっと見つめていた。そんな彼女のことを見るとはなしに見ていると


「未来ちゃん、こんな所にいたの?」


と声がしたと思ったら、看護師が慌てて彼女に駆け寄って来た。