そこへ、真が入って来た。


「理央、準備出来たか?叔母さんがそろそろ降りて来てって。」


「うん、わかった。」


彼の声に頷いた理央が立ち上がり、傍らの荷物を手に取ろうとすると、サッと真がそれを持った。


「行くぞ。」


「ありがとう。」


そう言い合って歩き出す2人。その光景がなんとも微笑ましく、未来は思わず笑みをこぼす。


1Fロビ-に降りると、理央の母親が待っていた。見送りの為に、一緒に降りて来た未来に丁重に挨拶する母親の横で、理央も改めて未来に頭を下げる。


「今夜はお父さんが帰って来たら、私の退院祝いに、ご飯食べに連れてってくれるんです。」


「そうなんだ、楽しみだね。」


「でもそれ、真くんたちの送別会も兼ねてるんです。」


「えっ、真くん、帰っちゃうの?」


「明日の飛行機で。本当は夏休みギリギリまでいるはずだったのに、急に都合が変わっちゃってさ。せっかく理央が退院して来たのに・・・。」


と言って、唇を尖らせている真。今日はヤケに元気がないと思ったら、そういうことだったのかと合点がいった。


「理央ちゃんも残念だね。やっとデート出来ると思ったのに。」


「だから違いますって。それに真くんが落ち込んでるのは、そのせいだけじゃないんだよね。」


「ああ・・・。」


「どうしたの?」


「翔平選手・・・。」


「えっ?」


「翔平選手、もうサッカ-出来なくなるかもしれないって・・・。」


「真くん・・・。」


言葉に詰まる未来に


「ねぇ未来さん、そんなこと絶対ないよな?翔平選手がもうサッカ-出来ないなんて、ありえないよな?」


懸命に真は尋ねる。小学生らしからぬ言動が目立った彼だったが、不安そうに聞いて来るその姿は、やはりまだ小学生の男子だった。


「もちろんだよ。私たちが応援している翔平選手は、こんなことでへこたれるような選手じゃない。私はそう信じているし、真くんも他の大勢の翔平ファンも思いは同じはず。だから、彼を信じて、大歓声で彼を見送ってあげようよ。」


「うん!」


未来の言葉に、真がようやく顔をほころばせて頷いた。


「じゃ、あと2日になっちゃったけど、理央ちゃんのことよろしくね。」


「任せとけ。なぁ理央、今日は帰ったら、目一杯甘えさせてやるからな。」


「な、なに言ってるの、バカ。」


急にいつもの調子に戻った真に、理央は顔を真っ赤にし、理央の母親は吹き出していた。


やがて、3人を乗せた車が遠ざかっているのを見送った未来は、病棟に戻りながら


(そうだよ。翔くんがこのままピッチに戻れないなんてありえないし、あってはいけないんだよ。)


思いを新たにしていた。