「クラブとしては、業を煮やしたってことだね。」


実際にクラブと接触している朱莉の言葉には、実感がこもっている。


「それでどうする?」


「どうするって、所属クラブの指示なら従うしかないっしょ。こんな身体でのフライトもしんどいけど。」


「そうだよな。わかった、とにかく協会と病院に話をして来る。」


そう言うとマネ-ジャ-はまた、慌ただしく病室を出て行った。


「でも翔平、この機会に別のお医者さんに診てもらうのもいいんじゃない?セカンドオピニオンなんて、今どき常識だし、出来ることはなんでもやるべきだよ。」


朱莉の言葉に


「それはそうなんだけど、クラブの指示で帰国するとなれば、結局前のケガの時に掛かった医者に診てもらうことになるんだろうけど、あの医者と病院、あんまり感じよくねぇんだよな。」


翔平はため息交じりで答える。


「えっ、そうなの?」


「なんかやたらプライドだけが高くて、あんまりに親身になってこっちに寄り添ってくれないんだ。まぁ医者については、ここの先生も似たようなもんだけど、看護師さんやリハビリスタッフなんかは全然こっちの方がいいと思うから。」


「そうなんだ・・・。」


「それにはっきり言って、スポ-ツ医学の先進国であるアメリカで診てもらうならともかく、ドイツじゃこっちとそんなに変わんないと思うから・・・あんまり気乗りはしないけど、でも朱莉が言う通り、ピッチにもう1度立つ為に、やれることは全てやるべきなんだよな、今の状況は。」


自分に言い聞かせるように、翔平は言った。


「そうだよ。じゃ、私も翔平と一緒に渡独できるように、叔父さんに頼んでみよう。」


そう言った朱莉に


「朱莉。」


「うん?」


「あくまで朱莉の仕事が優先でいいからな。俺の為に無理をして、それで朱莉の会社での立場が悪くなったら、本末転倒だからさ。」


翔平が言葉を掛ける。それを聞いた朱莉は、一瞬寂しそうな表情を浮かべたが、すぐに


「わかってる。」


と頷いた。


一方、マネ-ジャ-から話を聞いた遠山医師は


「私の手術や診断が信用出来んということかね?」


と不快感を露にし、遠山の立場を慮った協会もいい顔をしなかったが、さりとて、翔平の所属クラブチ-ムの決定に異を唱えることは出来ない。


翔平が再検査の為、ドイツに渡ることが発表されたのは、まもなくのことだった。