真の励ましが効いたのか、理央の病状は一気に上向いて来た。


「この前の例があるから油断は出来ないが、このままならお盆には退院できるんじゃないか。」


カンファレンスでの担当医の言葉に


「そうですか。理央ちゃん、きっと喜びます。」


未来が声を弾ませたが


「藤牧さん、この間みたいに、あんまり先走らないようにね。」


すかさず夏目に釘を刺され


「はい。」


と返事はしたが


(そんなこと、いちいち言われなくたって、私だって、同じ失敗を繰り返すほどバカじゃないよ。)


思わず心の中で年下の先輩に反発してしまう。


この日も理央の病室には、真が来ていたが、いつもは夕方までいる彼が、カンファレンスが終わる14時半くらいには


「ありがとうございました。」


とナースステ-ションに挨拶をして帰って行った。


「今日は彼氏、早く帰っちゃったね。どうしたの?」


午後の検温に行って、聞いてみると


「ちょっと未来さんやめて下さい。真くんはまだ小学生ですよ、全然そんなんじゃないですから。」


首をブンブン振って、でも顔を真っ赤に染めている理央が未来は微笑ましかった。


「今日の夜、サッカ-の試合があるじゃないですか。」


「うん。」


「実は真くん、宿題全然進んでないみたいで。」


「そうなんだ。」


「今日の夜、試合が見たかったら、早めに帰って来て宿題進めないと見せないからねって叔母さんに怒られたらしくて。」


「なるほど、そういうことか。」


2人は顔を見合わせて、クスクスと笑う。


これまで6~7月に行われるのが通例だったサッカ-ワールドカップだが、今回は開催国の都合で、異例の秋、11月開催となった。今夜はこれからさいたまスタジアムで、サムライブル-にとって、大会前の国内最終戦となる壮行試合が行われるのだ。


「真くんはサッカ-上手なんだよね?」


「正直言うと、私は病院を行ったり来たりだし、彼は今海外にいるから、彼のプレ-してる姿はほとんど見たことがないんです。でも小さい頃からサッカ-が大好きで、将来はJリーガ-になるんだっていつも言ってました。」


「そうなんだ・・・。」


「それで今回、久しぶりに会ったら、夢はもっと大きくなってて、高城翔平選手みたいに、海外でプレ-出来るような選手になって、JAPANのエースストライカ-になるって。」