実際のところは、担当医の見立て通りに、理央は順調に回復して行き、見舞いに来た友人達とも会話を弾ませ、その表情はいつになく明るかった。


「友達がね、『理央、今回は顔色がだいぶいいよ。この調子なら、夏休みの約束、大丈夫じゃない?』って言ってくれて。なんか嬉しくなっちゃった。」


「そっか、よかったね。」


笑顔でそんなことを言って来る理央に、未来も明るく答えていた。実際、担当医とも


「うん、理央ちゃんも中学生になって、体力がついてきたのかな。今回は回復が早い、週明けには退院出来そうだな。」


「そうですか、なら1学期の終業式には出られそうですね。」


そんな会話を交わして、安心して家路についた。


ところが翌朝、出勤してみると、状況は一転していた。


「おはようございます。」


いつものようにナースステ-ションに出勤して来た未来に


「ほら見なさいよ、私の言った通りになったじゃない。」


挨拶も返さずに、夜勤明けの夏目が厳しい表情で言葉を投げつけて来た。


「えっ、一体、どうしたんですか・・・?」


わけもわからず、問い返した未来に


「夜中に理央ちゃん、発作起こしたんだよ。」


「えっ?」


まさかの言葉に、未来は慌てて、理央の病室に向かう。そして、そこで見たのは、昨日とは別人のような青白い顔色でベッドに横たわり、点滴に繋がれている理央の姿だった。


「理央、ちゃん・・・。」


思わず、彼女の名を呼ぶが、理央は昏々と眠っている。


「夜中の2時くらいだったかな。ナ-スコ-ルが鳴って、慌てて駆けつけたら、理央ちゃん激しくせき込んでて・・・。すぐに発作を抑える注射をして、それから点滴をして・・・やっと落ち着いたのは明け方になってからだよ。」


「・・・。」


茫然とする未来の横に立った夏目は、状況を説明する。


「これが慢性の病気の怖さだよ。入院してる時だったからまだよかったけど、在宅時だったら、間に合わなかったかもしれない。」


「夏目さん・・・。」


「私たちは、患者さんとは、本当に細心の注意を払って、言葉を選んで接する必要があるんだよ。よく覚えといて。」


冷たい口調で言い残すと、夏目は未来の側を離れて行く。


(持病を持った人間の明日がどんなに儚くて、心もとないものなのか、身に染みて知ってるはずなのに、私は何をしてるんだろう・・・。)


未来はギュッと唇を噛み締めた。