入院して、そのまま眠っていた理央が目覚めたのは、2時間ほど経った頃だった。ナースコールで呼ばれ、病室に入って来た未来に


「また帰って来ちゃった・・・。」


青白い顔で、しかし少しでも雰囲気を重くしまいと、笑顔を浮かべる理央の気持ちが、未来には切なかった。


「もうすぐ夏休みで、友達とも約束が出来てたのにさ・・・また病院のベッドの上で、夏休みが過ぎてっちゃうのかな・・・。」


「今回はそんなに症状も重くないって先生も言ってたから、そんなことないよ、きっと。」


そう言って励ますと


「そっか、ならいいんだけど。」


先程の無理矢理の笑顔と違って、理央は嬉しそうに笑った。


「とりあえず、お熱計らせて・・・うん、36.2度。平熱だ。じゃ、またあとで来るからね。」


「はい。」


理央に笑顔を送り、付き添いの母親に会釈すると、未来は病室をあとにする。すると


「藤牧さん。」


呼び止められる、夏目だ。


「はい。」


内心のうんざり感を押し隠して振り向いた未来に


「余計なこと、言わないで欲しいんだけど。」


と厳しい顔と声で言う夏目。


「えっ?」


「さっき理央ちゃんに、今回はすぐにでも退院出来るみたいなこと言ってたけど。そんなのあなたが口にすべきことじゃないでしょ?」


「でも、先生は確かに・・・。」


「だったらそれは診断した先生が患者さんに言うべきこと。看護師が安易にそんなこと言って、それでもし違った結果になったら、あなた責任とれるの?」


「・・・。」


言葉に詰まる未来に


「入院中の患者さんはナーバスになってるの。マイナスの事柄はもちろん、プラスの言葉も安易に伝えると、あとで思わぬ結果を招く恐れもある。看護師として、言動にはもっと慎重になってくれないと困るのよ。」


そう言うと、夏目は踵を返して離れて行く。その後ろ姿を言葉を失いながら見ている未来に


「相変わらず、未来には厳しいね、志穂は。」


上田が近付いて来る。


「上田さん、私の言ったことって、そんなに余計なことですか?私、理央ちゃんの今の辛い気持ち、本当によくわかるんです。だからこそ、少しでも元気づけてあげたくて・・・私、適当なことを言ったんじゃないんです、ちゃんと先生からお聞きしたことを、理央ちゃんに伝えてあげただけなんです。なのに・・・。」


納得出来ないとばかりに訴える未来に


「理屈としては、志穂の言うことの方が正しいのかな。でも未来の気持ちも・・・間違ってはいないと思うよ。」


上田の口調は彼女をなだめるように、穏やかだった。