「気温がだいぶ、高くなって来ました。患者さんのケアをする私たちが体調を崩してるようでは、お話になりません。自分の体調管理は、しっかり行ってください。では、本日もよろしくお願いします。」


師長が注意を喚起するように言って、この日の朝礼が終わった。


「ウチの子が通っている小学校でも、熱中症で倒れる児童が出たからね。本当に注意しないと。」


「そうですね。」


上田美由紀とそんな話をしながら、ナースステ-ションを出た未来は、この日の勤務を開始した。


(いよいよ夏本番だな。そして秋にはW杯の季節がやって来る・・・。)


ふとそんなことを思う。


(翔くん、リハビリ頑張ってるかな・・・?)


このところ、翔平に関する報道は、ほとんど目にしなくなった。「頼りがないのは無事な証拠」という言葉は、いささか似つかわないかもしれないが、きっと順調にリハビリが進んでいるんだろうと、未来は思っている。


いつものように、担当の入院患者たちへの挨拶とケアを終え、未来がナースステ-ションに戻ると、診察室からベッドの空き状況の確認が入った。入院が必要な患者が出たということで、ステ-ションには緊張が走る。


病床の空きを確認して、夏目志穂が診察室に連絡をすると、折り返し入院患者のカルテが送られて来た。


「藤牧さん。」


そこに記されていた名前を確認した夏目は、そのカルテを未来に渡す。受け取った未来の目に2ヶ月前に退院したばかりの「大村理央」の名が飛び込んで来る。


(理央ちゃん・・・。)


複雑な思いを抱いていると


「感傷に浸ってる暇なんてないよ。受け入れ準備、急いで。」


厳しい声で言った夏目が、自らも立ち上がった。


「はい。」


未来も慌てて、後に続いた。


少しすると、ベッドに横たわった理央が運ばれて来た。そのまま病室に運ばれると、スタッフたちが手早く必要な処置を行う。あっと言う間に、数か月前の姿に逆戻りしてしまった理央に、未来は胸をつかれる思いがする。


「よろしくお願いします。」


付き添って来た理央の母親が、頭を下げて来た。


「夏場に入って、発作が起こりにくい季節になって、少し安心していたのですが・・・エアコンの外との寒暖差にやられてしまったようです。迂闊でした・・・。」


後悔の色を露にする母親に


「今、お薬を入れてますから、もう少しで落ち着くと思います。」


説明した未来は、目を瞑って横たわる理央の姿を見つめていた。