「確かに今回のケガは、タイミングも厳しかったと思います。でもこう言ってはなんですが、W杯は今年が最後なわけじゃありません。焦らず4年後を目指せばいいじゃないですか。」


トレ-ナ-のその言葉に


「先生は、今回のサムライブル-の平均年齢をご存じですか?」


翔平は尋ねる。


「いえ。」


「27.8歳です、ちなみに過去の代表を見てみても、だいたいこの前後で収まってる。恐らく日本代表としては、このくらいの構成が一番バランスが取れてるということなんでしょう。」


「そうなんですか。」


「つまりちょうど今の俺の年齢が代表チ-ムの働き盛り、中心ということになります。俺は前回大会、23歳で初めて代表に召集されたけど、足が地に着かず、無我夢中の内に大会が終わってしまった気がします。逆に4年後、31歳と言うと、エースストライカ-と呼ばれている今のパフォ-マンスを維持できてるかどうか、かなり微妙だと思っています。」


「・・・。」


「だからこそ、今回の大会に賭ける思いは強かった。自分の中ではこれが最後の代表、そんな覚悟でいたんです。」


「そうだったんですか?」


「それが結局このザマですからね、正直凹みました。」


「いやでも・・・このケガをなさる前から、そんなことを考えてらっしゃったなんて、想像もしなかったですよ。早すぎませんか?」


「W杯って、そんな甘いものじゃない。まして俺はジャパンのエースストライカ-として期待されている選手です。その上このケガだ、4年後なんて、とても口に出来る立場じゃなくなっちゃいましたよ。」


「高城さん・・・。」


「でもね先生、W杯はともかくとしても、サッカ-を諦めるつもりはない。もう1度、必ずピッチに立つ。その意欲は全く衰えていないです。だって、このままじゃ自分自身がまず納得いかないし、もし俺がピッチに立てないままで終わったら、俺にケガをさせたオーストラリアの選手がダメになってしまうかもしれない。彼の為にも俺は絶対にピッチに立たなきゃならないんです。そして・・・俺には自分がサッカ-選手である間に、どうしても会いたい人がいるんです。」


そう言って、翔平は少し照れ臭そうな表情を浮かべる。


「実は俺、その人に励まされて、その人に見てもらいたくて、サッカ-選手になったんです。今はもうどこで何をしてるのかもわからない、ひょっとしたらもうこの世の人じゃない可能性もあるんです。」


その翔平の言葉に、松山は驚いたように彼を見る。


「でもいつか会えるんじゃないか、こうやって俺がサッカ-選手を続けて、まぁ有名人でいれば、ひょっとしたら向こうから訪ねて来てくれるんじゃねぇか。そんなガキみたいなことを考えて、もう10年以上経っちまってるんですけどね。とにかく俺は、その日が来るまで、サッカ-選手でいよう、そう決めてるんで。」


「いいお話ですね。」


「そうですかね?いい齢してなに言ってるんだって笑われそうで、あんまり人に話したことなかったんですが、つい・・・。ま、聞かなかったことにして下さい。さ、始めますか。」


照れ隠しのように言って、立ち上がろうとする翔平に、サッと手を貸した松山は


「いい目標があって、よかったじゃないですか。焦らず、頑張って行きましょう。」


翔平を力づけるように言った。


「よろしくお願いします。」


翔平も笑顔で答えて、トレ-ニングが再開された。