着換えを終え、通用門からバス停に向かった未来は、前を黒部が歩いていることに気付いた。


「先生!」


思わず声を上げて、駆け寄ると


「おぅ、誰かと思えば恵のダチ子ちゃんか。」


振り向いた黒部が、ニヤッと笑った。


「お疲れ様でした。」


「ああ、いろいろ疲れることが多いな。」


冗談めいた口調ではあったが、そこには黒部の本音がにじみ出ているような気が未来はした。


「あの・・・。」


「なんだ?」


「翔くん、いえ高城選手の手術、先生が担当して下さればよかったと思います。」


そして気が付けば、そんなことを口にしてしまっていた。そんな未来を訝しそうに見た黒部は


「あんた、高城の知り合いか?」


と尋ねる。


「いいえ、ただの一ファンです!」


慌ててかぶりを振る未来。


「そうか・・・で、なんでそう思うんだ?」


「えっ?」


「なんで、俺が手術した方がいいと思うんだ?」


真正面から聞かれて、未来は言葉に詰まってしまう。が黒部はそこは深追いして来ず


「まぁ、ご期待に沿えないのは申し訳ないが、俺たちはホステスと同じで、ご指名にあずかれないと出番がないんでな。ましてや大先生のお出ましじゃ、俺みたいなチンピラは全くお呼びでないってことさ。」


そう言って笑ったが、その笑いを収めて、ふと真顔になると


「でも、あの手術が昔の名前で出ていますみたいなオッサンの手に負えるといいがな。」


ボソリと呟くように言った。


「先生・・・。」


その言葉に驚いて、黒部の顔を見た未来に


「ま、今のは独り言だ。気にしないでくれ。じゃ、お疲れ。」


またいつもの調子に戻って言うと、立ちつくす未来にサッと手を上げ、そのまま立ち去って行った。