翌日も朝から勤務に就いた未来は、前日同様慌ただしい時間を過ごし、昼食休憩に出たのは13時を過ぎていた。食堂に入って、メニュ-を選んでいると


「未来。」


と彼女を呼ぶ声がする。その声の方を向くと整形外科所属の研修医、本多恵(ほんだめぐみ)が、笑顔でこちらに駆け寄って来るのが見えた。


「恵。」


そんな彼女に未来も笑顔を向けると


「お疲れ様~。今日は未来とお昼一緒でよかったぁ。」


嬉しそうに言うと抱き着いて来る恵。


「ちょっ、ちょっと恵。」


これにはやや困惑顔の未来だが


「やっぱり未来は私の癒しだわ~、まるでお母さんに抱き付いてるみたい。」


恵の方は全く意に介する様子がない。


「お母さんって勘弁してよ、私たちタメなんだから。」


「だって仕方ないじゃん、そう思っちゃうんだから。」


そんな会話を交わしながら、2人はテーブルに着いた。未来と恵は中学時代のクラスメイトだった。卒業後は疎遠になってしまった2人だったが、3年前未来が城南大学病院に就職したのと同時期に、恵も研修医として着任して来たのだ。


その全く予期せぬ偶然の再会は2人を驚かせ、そして喜ばせた。とはいっても所属は違うし、普段、看護師と医師は意外なくらい接触が少ない。勤務中はほとんど顔を合わせることはないし、プライベ-トの時間もなかなか合わないのが現実だった。


「やっぱり後期研修は違う?」


「うん。いろんな診療科を広く浅く学ぶ前期研修と違って、自分が目指す専門領域について深く学ばなきゃいけないからね。緊張するし、大変だよ。」


「そっか、そうだよね。指導医の黒部(くろべ)先生は相変わらず?」


「後期になると、指導医はあんまり口うるさくいろいろ言って来ないって聞いてたのに、全然話が違うんだもん。参っちゃうよ。」


「黒部先生は特に厳しいらしいね。」


「ホント、ツイてない。」


嘆く恵をなだめ、その後は雑談で賑やかに盛り上がって時間を過ごした2人は


「じゃ、またお互い頑張ろう。」


そう言い合って、部署に戻った。


休憩から戻ると、すぐにカンファレンスの時間。未来が準備をしていると


「藤牧さん。」


と、声が掛かる。その声の主がすぐにわかって、一瞬顔をしかめた未来だったが、すぐにその表情を消し


「はい。」


穏やかな表情を貼り付けて振り向くと、そこには予想通り、難しい顔でこちらを見ている夏目志穂(なつめしほ)の姿があった。