結局、まずは所属クラブへの報告をということになり、マネ-ジャ-が席を離れた。すると病院側から、オーストラリアチ-ムの監督と加害選手が謝罪とお見舞いの為に、先ほどからお待ちだとの連絡が入った。


「彼らはそろそろ離日しなきゃいけない時間でしょう、すぐに入ってもらって下さい。」


なにをやってるんだと言わんばかりの口調で翔平が言う。やがて、神妙な表情で2人が入って来た。ベッドに横たわる翔平の痛々しい姿に、息をのむような表情を浮かべた2人は、沈痛な面持ちで彼の横に立つと、当該選手が、今回は自分のファール(反則)の為に、このような事態を引き起こしてしまい、誠に申し訳ない。改めてお詫び申し上げると共に、翔平選手の1日も早いご回復を、心よりお祈りする。そう言って深々と一礼した。


続けて監督が、今回の事故は、決して我々が望んでいたものではないが、結果として、あまりにも重大な事態を引き起こしてしまった。チ-ムを預かる監督として、深くお詫びを申し上げると共に、彼には代表チ-ムを退いてもらうことにした。こんなことをしても、君のケガが良くなるわけではないが、1つのケジメとして、私と彼の間で合意したことなので、ご報告させてもらうと語った。


通訳に入った朱莉の言葉に耳を傾けていた翔平は、ニコリと微笑むと


「ご丁寧なお言葉、感謝します。今回の事故は不可抗力と考えています。ファールに対する処分はあるでしょうが、それ以上のことを僕は望んでいません。処分が明けたら、またピッチを全力で駆けて下さい。僕も時間は掛かるでしょうが、必ずピッチに戻って見せます。その時はまた一緒にプレ-しましょう。」


と言って、弱々しい仕草ではあったが、右手を彼らに差し出した。その行動に驚いたような表情を浮かべた2人は、次に翔平の負担にならないように、そっとその手を順番に握り返した。


「アリガトウ、グッドラック。」


目に一杯の涙を浮かべて、そう言ったオーストラリア選手に、翔平は頷いて見せた。最後にまた一礼して退出した彼らを見送りに、翔平の両親とチ-ムスタッフが出て行き、病室は翔平と朱莉だけになった。


「よかったね。」


「ああ。君がさっき言った通り、あのプレ-は覚悟のファールだ。だがあの場面、もし立場が逆でも俺は彼と同じことをしただろう。ファールを肯定も賛辞も出来ないが、それが国際試合、それぞれの国の威信を掛けた戦いなんだ。」


翔平の言葉に、朱莉は頷かされていた。