「バカ言うな。」


「えっ?」


「そんな約束できるかよ。『私、絶対失敗しないんで』なんて、トンマな寝言言えるのは、ドラマの中の医者だけだ。」


そう言い放った黒部の顔を、翔平も恵も他の面々も唖然とした表情で見つめる。が彼は意にも介さず


「俺が約束できるのは、手術を成功させるために、全身全霊を傾けるということだけだ。そしてもう1つ、俺は成功の見込みがない手術は絶対にやらねぇ。」


と続けたあと


「ま、俺に任せるのか、他の医者を探すか、あとはそっちで決めてくれ。それじゃ。」


そう締めて、一礼すると黒部はスタスタと病室を出て行く。それを見て、恵も慌てて一礼して、後に続いた。


 ◇  ◇  ◇  ◇  ◇


「それで出て来ちゃったの?黒部先生。」


『うん。』


「強烈だね。」


『患者さん相手に、私と話してる時と全然変わんない口調でさ。いつものことではあるんだけど・・・あの状況で、さすがにビックリしたよ。』


呆れたような口調で言った恵は


『とにかく、高城のケガは下手したら健常者としての生活も脅かされかねないような重傷だってこと。』


その後、深刻な口調で自らの言葉を締めた。


「そっか・・・わかった。忙しい時にありがとうね、恵。」


『うん。ところで未来、プレスリリ-スがあるまでは、このことは絶対に他言厳禁だからね。そうじゃないと私、病院にいられなくなっちゃう・・・。』


不安そうな声を出す恵に


「わかってる、約束するよ。私だって看護師なんだから、守秘義務くらいわかってる。恵を窮地に立たせるようなことは絶対にしないから。」


未来は恵を安心させるように答える。


『お願いね。じゃ、また。』


「うん、午後も頑張ってね。」


そう言って通話を終えた未来は、


「翔くんが・・・サッカ-が出来なくなっちゃうかもしれない。そんなのダメ、絶対にダメ・・・。」


次の瞬間、崩れ落ちるように床に座り込んだ。


「でも私には何もできない。側に居て、励ましてあげることすら。・・・。」


そう呟いた未来の目に、涙が浮かんでいた。