「翔くん・・・。」


翔平がピッチを去り、試合は再開されたが、未来には目の前の画面で展開されている試合が全く入って来ない。もはや試合への興味などなく、ただ翔平のことだけが気がかりであり心配だった。やがて彼が救急車で搬送されたというニュ-スが入って来る。搬送先が自らが勤務する城南大学病院であることは、容易に想像できて、未来はいても立っていられなくなる。


「私、病院に行って来る。」


そう言って、立ち上がった未来に


「落ち着きなさい。今、あんたが行ったって、なんにもならないでしょ。」


窘めるような景子の声が飛ぶ。


「でも・・・。」


「あんたは管轄違いでしょ。」


「そりゃそうだけど、病院に行けば、なにか情報がつかめるかもしれないし。」


「別の病棟の看護師が、ノコノコ現れたって、なにか出来るわけでもないし、ただの野次馬と変わらないでしょ?ご迷惑になるだけよ。」


「そんな野次馬って・・・。」


さすがにそれは言い過ぎだと、未来は反論したかったが、でも現実には全くその通りで、未来は整形外科病棟の所属でもなければ、翔平の関係者でもないのだ。


諦めて、入浴そして就寝の準備をするが、気もそぞろ。夜間であり、病院側も少ない人数で対応に追われているはずで、マスコミ対応にまで手が回るはずもないことはわかっているのに、なんとか少しでも情報が得られないかと、SNSを見てみるが、当然、翔平が城南大学病院に搬送されたということ以上の情報は入って来ない。


ただ、日本勝利の余韻に浸ったまま、一部のサポ-タ-が病院に押しかけて、気勢を上げている様子がアップされたり、ケガをさせたオーストラリア選手への非難中傷がネットに溢れている様子が目に入り、未来は悲しい思いを抱く。


結局そんなこんなで、やきもきしながら眠れない時間を過ごしているうちに、夜が白々と明け始めて来てしまった。こんな時に限って、今日は仕事は休み。


(出勤してれば、何らかの情報に触れられる可能性もあるのに、結局は病院側の正式な発表を待つしかないことだよね・・・。)


ベッドの上で未来は思わずため息を吐いた。こうしてても仕方がないと目を閉じるが、全く眠気が感じられない。やがて、ふと気が付いて身体を起こすと


『おはよう。いろいろ大変なところ悪いんだけど、お昼休みになったら、連絡くれないかな?』


と恵にLINEを送り、またその身をベッドに横たえた。