救急車が到着して、翔平が運び込まれる。その姿をTVカメラが追い、フラッシュが焚かれる。


「高城選手、聞こえますか?私は城南大学付属病院の医師、本多恵です。これからあなたをウチの病院に搬送いたします。」


恵の呼びかけに、それまで痛みに耐えるように、じっと目を瞑っていた翔平がハッと彼女を見て


「本多・・・。」


驚いたように声を上げる。


「久しぶりだね、高城。痛む?」


一方の恵は冷静に声を掛ける。


「ああ、結構いい具合に痛ぇぞ。」


苦痛に顔を歪めながら答えた翔平を見て


「お願いします。」


と恵は救急隊員に呼び掛けた。サイレンが鳴り響き、救急車が走り出す。それには翔平も気付く。


(うわぁ、俺ホントに救急車乗ってるよ。生まれて初めてなんですけど、参ったなぁ・・・。復帰初戦でまた病院送りにされるとはさすがに思わなかった・・・。)


思わず嘆き節になる。


(それにしても滅茶苦茶痛ぇんだけど・・・4ヶ月前とは比べ物になんねぇよ。今度は治るまでどのくらいかかるんだよ?W杯間に合うのかよ・・・って、そうだ。)


ふと気付いた翔平は


「本多。」


とうっすら目を開けて、恵に呼び掛けた。


「うん?」


驚いたように自分を見た恵に


「試合、どうなった?」


と聞いてみる。


「ごめん、わかんないな。」


申し訳そうに答える恵の顔を見て、翔平はまた目を閉じた。


(そりゃそうだよな・・・。それにしても、まさかこんなとこで本多に会うなんて、まさか医者になってたとはな。それに随分綺麗になりやがってって、痛ぇ・・・。)


そんなことを考えているうちに、救急車は10分程で病院に着いた。後ろのドアが開かれ、ストレッチャ-に乗せられた翔平に


「高城、病院に着いたから。まずMRIで、患部の状況を確認するからね。」


恵が呼び掛けて来た。


「わかった、とにかく手っ取り早く頼む。正直、痛くてたまんねぇ・・・。」


思わず本音を吐いた翔平に


「わかった、じゃ動くからね。あっ、その前に日本代表、延長戦で2-1で勝ったよ。W杯出場決定。」


と恵が教えてやる、少しでも元気づけたかったのだ。


「そっか、よかった・・・。ありがとうな、本多。」


その翔平の言葉と共に、ストレッチャ-が動き出した。


(とりあえずはよかった。でも間に合うのかよ?俺・・・。)


チ-ムの勝利の報に安堵したが、すぐに痛みで現実に返る。半年後に迫るW杯、しかしその時に自分はピッチに立てるのか?不安は募る。