それとは対照的に、オーストラリアの選手たちはガックリ肩を落としている。その姿はまるで、敗戦が決まったような雰囲気であった。


「奴ら、だいぶ堪えてますね。」


翔平の言葉に


「ああ、向こうを立ち直らせる暇を与えてやる必要はない。このまま一気に決めるぞ。」


長谷がチ-ムメイトに檄を飛ばす。


「おぅ!」


翔平たちは力強く応えると、ポジションに散って行く。


試合再開。時計の針は40分を過ぎた。アディショナルタイムはあるかもしれないが、とりあえず残り試合時間は5分を切った。


(イケる、絶対に延長に入る前に決着を付けてやる。見ててくれよな。)


翔平は右ポケットの中に一瞬手を入れると、走り出す。するとオーストラリア側のパスワ-クのミスからのこぼれ球が翔平の目の前に転がって来た。あれだけマークされていたはずの翔平の周りに、まるでエアポケットのように誰もいなかった。完全に疲れと心理的ショックから来たオーストラリア側のミスだった。


「よし!」


思わず声を出した翔平は、そのボールを奪うと、そのままドリブルをしながら走り出す。願ってもないその光景に、スタジアムには今日一番の歓声が上がる。


「行け、行け~」


「このまま独走だ!」


興奮気味に叫ぶサポ-タ-たちの声を受けて、翔平は走る。しかしこのまま指をくわえているわけには行かないオーストラリアデフェンダ-陣も懸命に翔平に追いすがる。そして、1人の選手が翔平の行く足をなんとか止めようと、一か八かのスライディングをしかけて来た。


「ウワッ!」


そのスライディングをちょうど真横から受ける形になった翔平の身体は、そのまま当たって来た選手の身体の上を飛び越えるように吹っ飛んだ。


「翔くん!」


その様子をTVで見ていた未来は、顔色を変えて立ち上がる。スタジアム内には、先ほどまでとは違った悲鳴や怒声が上がっている。


「翔平!」


日本選手たちが慌てて駆け寄って来る。


「大丈夫か?」


長谷が懸命に呼びかけるが、翔平は苦悶の表情を浮かべたまま、立ち上がるどころか返事も出来ない。ただ事ではない、一瞬にしてそう判断した長谷は


「担架を!」


と自軍ベンチに叫ぶように要請した。それを受けて、松前監督がチ-ムスタッフに指示を出す。