試合時間は残り15分を切った。とにかく1点を取らないと、試合は終わってしまう。焦るなといくら自分に言い聞かせようとしても、次第に焦燥感は募る。そんな翔平たちをあざ笑うかのように、雨は容赦なく選手たちの身体を濡らして行く。


試合再開、レフリ-のホイッスルを受けて、選手たちが動き出す。TV画面に段々翔平が映し出される機会が多くなって来た。


「なんとかしてくれ、翔平。」


そんな日本中のサポ-タ-の思いを代弁しているかのようだった。


(選手交代はしているが、この悪コンディションの中で走り回って来た先発の選手たちには疲れの色が見える。アイツらの足に別に水掻きが付いてるわけじゃない。)


もちろん試合開始からずっと動いているのは、翔平も同じだったが、自分の体力にはまだまだ自信がある。


そして38分、相手のパスをカットする形で、長谷がボールを奪った。そしてそのボールを素早く、敵のマークが甘くなっていた選手にパスすると、彼はそのまま敵陣に向かって、突っ走り始めた。


「よし!」


翔平は思わず声が出る。オーストラリアの選手は懸命に彼を追うが、前半のスピ-ドはもうない。


「こっちだ!」


逆サイドに回っていた翔平が手を上げる。それを見た選手は


「翔平!」


と叫ぶとボ-ルを蹴る。そのパスは正確に翔平に届き、一目散にゴールに向かって走り出す。ついに待ち望んだシーンの現出に、スタンドのサポ-タ-たちは総立ちになって、大声援を送る。


「翔くん、お願い決めて!」


テレビの前でも未来が、祈るように叫ぶ。彼らの声に押されて、翔平は相手デフェンダ-を交わして行く。そして


「行け~!」


全身全霊の叫びと共に、翔平がシュ-トを放つ。横っ飛びに吹っ飛んで、懸命なセーブを試みる相手キーパ-のわずか数センチ先をボールが抜け、そしてゴールに突き刺さった。


「ゴ~ル、同点、日本ついに同点に追いつきました。決めたのはやはり、サムライブル-の誇るエースストライカ-高城翔平~!」


「やったぁ!」


実況の声に釣られた未来は思わず、飛び上がる。そして


「翔平!」


「ナイスゴ-ル!」


「おぅ!」


グラウンドでは、長谷以下の日本代表選手たちが、次々と翔平に飛び着き、喜びを爆発させていた。