監督から檄を飛ばされるまでもなく、翔平は今日のこれまでの自分に、不甲斐なさを感じていた。雨が好きじゃないことは自覚しているが、そんなことは言い訳にもならない。


(俺は点を取る為に、代表に呼ばれてるんだ。このままじゃ、なんの為にあの苦しいリハビリを乗り越えて、今日に間に合わせたのかわかんねぇ。)


雨脚が衰える気配もない空をにらむように見上げながら、翔平は自分を叱咤する。


「ハーフタイム終了です。」


そこにチ-ムスタッフから声が掛かり、場の雰囲気が一瞬にしてピリッと引き締まった。


「よし、行くぞ。必ず逆転するぞ。」


長谷の声に、イレブンが再度ピッチに向かう。


(力を・・・貸してくれ。)


走りながら、翔平は右のポケットの中にある物をキュッと握りしめた。


後半のゲームが始まった。日本の逆転勝利を信じて、サポ-タ-たちは声を枯らして声援を送る。そしてその場にはいないが、未来も気付かぬうちに、拳をギュッと握り


(翔くん、頑張って。)


翔平の姿を見逃すまいと、画面に目を凝らしている。


試合は前半とは一変し、1点のアドバンテ-ジを持つオーストラリアが、それをある程度守りに入るのは予想出来ることで、それに対して日本が積極的にボールを支配し、パス回しから相手ゴールを脅かす。


「翔平!」


監督の指示通り、選手達は翔平にボールを集めようとするが、エースストライカ-に対して、相手のマークが厳しいのは当たり前のこと。うまくパスが通らない。オーストラリアの巧みなディフェンスに、スタンドからはため息が漏れるが


(焦れば、相手の思うツボだ。とにかく攻め続ければ、チャンスは必ず来る。)


翔平は冷静に考えていた。


しかし10分、20分・・・時間は着実に過ぎて行く。日本代表は、オーストラリアゴールに迫るが、相手キーパ-のファインセ-ブに阻まれ、コーナ-キックからの攻撃も相手の高さに競り負け、どうしても1点が奪えない。


そして30分、オーストラリアは選手交代のカードを切り、デフェンダ-を2人投入する。とにかくこのまま逃げ切る、その意図が明確になって来る。


それを見た松前監督は、逆に勝負に出て、攻撃用の選手を起用して、翔平とツートップで、1点をもぎ取りに行く決断を下す。


「おい、とにかく走るぞ。」


翔平はピッチに立った選手に声を掛けた。