「文字通りの最終決戦、運命のキックオフを告げるホイッスルが今、鳴り響きました!」


TVから、実況アナウンサ-の声が響いて来る。その画面を未来は、母親と一緒に見つめていた。未来にとって、この試合は日本のW杯出場が掛かった一戦というより、翔平の大切な復帰初戦という意味合いの方が強い。


「翔平くん、間に合ってよかったね。」


その未来の思いがよくわかっている景子が言うと


「うん。」


目は画面を追いながら、未来は答える。


(翔くん、しっかり・・・。)


こうして始まった試合は、意外なほど早い段階で動き出す。開始3分、カウンタ-で日本からボールを奪ったオーストラリアのフォワ-ドが約30mを独走して、追いすがる日本のディフェンダ-陣を振り切って、あっという間の先制点。


「ウソでしょ・・・。」


未来も呆気にとられる早業だった。大喜びするオ-ストラリア選手たちに対して、スタンドからはため息が上がる。


「日本のディフェンダ-陣がぬかるんだグラウンドに足を取られて、スピ-ドがなかなか乗らなかったのに対して、あのオーストラリアの選手のスピ-ドは凄かったですね。」


TVの解説者も呆れた声を出すしかなかった。


「仕方ない、切り替えて行こう。」


「おぅ。」


翔平の声に、選手達は応えて、ポジションに散って行く。


(まだ始まったばかりだ、落ち着け。)


翔平は自分に言い聞かせるように、心の中で呟く。あまりにも早すぎる失点だったが、それだけに挽回の余地は十分ある。


だが、サッカ-は他のスポ-ツとは1点の重みが違う。たかが1点、されど1点。1点のリードが与える心理的有利不利は、想像以上に大きい。更に昼間から降り続く雨が、日本代表の勢いを奪っていた。


結局、日本は攻撃より守備の方に力を割かざるを得ない状況が続いて、0-1のままハーフタイムを迎えてしまった。


「なんでアイツら、このグラウンド状況であんなに平気なんだ?」


ベンチに戻って来た選手から、思わず愚痴めいた声が上がる。


「だが、そんな状況でも1点ビハインドで前半乗り切ったんだ。まずは上出来だろう。」


「その通りだ。お前たちもそろそろこのコンディションにアジャスト出来て来たはずだ。後半は巻き返すぞ。翔平、相手のマークがキツイのは百も承知だが、お前にボールを集めて行くぞ、いいな。」


「任せて下さい!」


松前監督の指示に、翔平は力強く頷いた。