空港に着いた未来を、翔平が待っていた。もう松葉杖から完全に解放されていた彼は、満面の笑みで駆け寄って来る恋人を、しっかりと抱き止めた。


「待ってたぞ、未来。」


「うん、会いたかった・・・。」


こうして始まった2人だけの生活。翔平以外の知り合いが誰一人いない慣れない海外での生活だったが、それでもかつて手術と治療の為に過ごしたアメリカでの3年間の経験が役に立った。


(あの3年間が、こんな形で役に立つ時が来るなんて、当時は思いもしなかったな・・・。)


未来は人生の不思議さを感じていた。


約半年ぶりに再会した恋人は、既に何事もなかったかのように、グラウンドを駆け、そしてボールを力強く蹴っていた。その回復ぶりに、未来は目を見張った。


そして、未来がドイツに渡ってから4ヶ月、あの悪夢のような負傷からほぼ2年。ついに翔平がピッチに戻る日がやって来た。彼が姿を現すと、スタジアムは万雷の拍手に包まれた。その声援に手を振って応えた翔平は、しかし試合が始まると、当たり前のように、ピッチを駆けた。ゴールこそ決められなかったが、途中交代を促す監督に首を振り、90分を戦い抜いた彼に、観客は惜しみない拍手を送った。


「我々は今日、奇跡の目撃者になった。2年前、翔平が再びピッチに立つ日が来ると信じた人はほとんどいなかった。それくらい彼の負傷は酷いものだった。しかし、彼は数々の苦難を乗り越え、私たちの前に以前と変わらぬ姿で戻って来てくれた。我々は、翔平を信じて待っていて、正解だったのだ。私は改めて彼に『お帰り』という言葉を、声を大にして贈りたい。」


試合後、翔平のチ-ムの監督は、興奮を隠すことなくコメントした。そんなチ-ムメイトの祝福、更には多くの取材陣に囲まれ続けた翔平が、自宅に帰り着いたのは、試合終了から優に6時間が過ぎていた。


「ただいま。遅くなってごめんな。」


「ううん、お帰りなさい。お疲れ様でした、翔くん・・・。」


目に一杯の涙を湛えながら、しかし満面の笑みで翔平を出迎えた未来は、そのまま彼の胸に飛び込んで行く。


「見ててくれたか?」


晴れの復帰戦をしかし、人込みが苦手な未来はスタジアムで観戦することが出来ずに、自宅でTV観戦していた。


「もちろん。翔くん、本当におめでとう、そして、感動をありがとう。」


「お礼を言うのは俺の方だ。未来、本当にありがとう。」


2人は強く強くお互いを抱きしめ合っていた。