そして、翔平と未来の二人三脚でのリハビリの日々が始まった。


2人の関係は、そう時を置かずに、病院スタッフ、更には他の入院患者たちにも知られることになったが、


「リハビリに近道はない。だが、今のお前たちなら、何でも乗り越えられるだろう。引き続き、しっかりやれよ。」


定期検診にやって来た黒部がこんな励まし半分、冷やかし半分の言葉を贈って来たように、周囲は暖かくも微笑ましく見守ってくれていた。もちろんそれに甘えることなく、未来も看護師としての職務を怠ることなく、翔平を支え、それに応えるように彼もリハビリに励んだ。そしてあっという間に3か月、更には半年と時は流れ


「俺が診てやれるのはここまで。あんたが第一線のサッカ-選手として復活するには、次の段階に入る時が来た。」


黒部からそんな指示が出た時、翔平が負傷した日から、既に1年半近くが経過していた。


「ここまで、よく頑張ったな。大したもんだ。」


そう言ってニヤリと笑った黒部に


「先生がいらっしゃらなかったら、俺はここまできっと来られなかったと思います。本当にありがとうございました。」


翔平は心からの感謝の念を述べた。


「そう言ってもらえるのは、医者冥利につきるが、あんたの決して諦めない強い心がなければ、どうにもならなかったし、それ以前に、あんたの彼女が俺とあんたを巡り合わせてくれなかったら、なんにも始まってなかった。」


「そうですね・・・。」


「お前、あの子を大切にしろよ。」


「はい、肝に銘じます。」


翔平の言葉に、黒部は頷くと、ポンと彼の肩を叩いた。


こうしてすっかり馴染んだ伊東を引き上げ、一旦実家に戻った翔平は、すぐにドイツに渡った。チ-ムに合流して、実戦復帰に向けてのトレ-ニングに入る為だった。


一方、未来は伊東に残った。彼女はあくまで、城南大学病院伊東分院所属の看護師として、この地に赴任したのだから、それは当然のことだった。2人は再び離れ離れの時間を過ごすことを余儀なくされてしまったが、着任からちょうど1年の区切りを迎えたところで


「我が儘を言って、申し訳ありませんが、私は彼の側にいて、彼を支えたいんです。」


未来は辞表を提出。惜しまれながら、翔平を追って、ドイツに向かった。