気が付けば、足早に秋の陽は沈み、夜の帳が2人を包みつつある。


「そろそろ、戻ろうか?」


声を掛けて来た未来に


「いや、俺の方にも大事な話がある。」


厳かな口調で翔平は告げる。その彼の声音にハッと緊張の面持ちを浮かべた未来の顔をじっと見上げて


「未来のことが・・・好きなんだ。」


万感の思いを込めて、翔平は告げた。


「翔くん・・・。」


息を呑んだ表情のまま、固まった未来に


「中1の夏、病院の屋上で初めてお前を見かけたあの時から、ずっとずっと好きだった。この気持ちは・・・今日まで1度も変わったことなんかない。」


翔平は決然と言った。


「正直、もう会えないのかと思ってた。いや、ひょっとしたら未来はもうこの世には・・・そんなことも考えた。でも今、お前は俺の横にいる。いろいろ行き違いもあったけど、もうそんなことはどうでもいいんだ。未来と一緒にいられない、未来に触れることが出来ない、そんな時間がまた訪れるなんて、俺には考えられないし、耐えられないんだ。だから約束して欲しい。もう、どこにも行かないって。これからはずっと、俺の横にいるって。」


「いいの・・・?」


「えっ・・・?」


「私が翔くんの横にいてもいいの?」


「いけない理由がなにかあるのか?それとも一緒にいたくない理由が、未来にあるのかよ?」


「そんなの・・・あるわけない。もう私は翔くんの前に顔を出せる立場じゃないし、翔くんには、あんな素敵な彼女さんがいるんだから、もう私なんかを必要としてないんだって、自分に必死に言い聞かせてたけど、でも本当は私だって翔くんのことが、ずっとずっと好きだったんだから・・・。」


そう言って、翔平を見つめる未来の瞳が潤んで行く。


「未来!」


翔平が未来の手を取る。


「もどかしいなぁ、本当ならここはお前をバッと抱き寄せる場面だよな。でもこの身体じゃ・・・。」


「ううん、今はこれでいい。だって、私たち、手を繋いだのだって初めてじゃない。」


「そっか、そうだったな・・・。」


「そしてやっとお互いの気持ちも伝え合えた。やっと好きだって言えた、好きだって言ってもらえた・・・だから今は、これで十分・・・。」


「未来・・・。」


「翔くん・・・。」


お互いを名を呼び、そして見つめ合う2人。どのくらいの時間が経っただろう。


「やっぱりちょっと足らねぇぞ。」


と翔平。


「えっ・・・?」


戸惑う未来の手を翔平は引く。


「キャッ。」


小さく悲鳴を上げた未来の身体は引き寄せられる形で、座っている翔平の前に。


「未来。」


彼女の名を呼んで、下から見つめる翔平。やがてその視線の意味を悟った未来はゆっくりとしゃがみ込み、静かに目を閉じた。それに応えるように、彼女の顔に近付いていった翔平は、瞳を閉じ、その可憐な唇に自らのそれを重ねて行った・・・。