途中休憩を挟んで、車が3時間半ほどで分院に到着すると、翔平は出迎えた病院職員の手を借りて、車から降り立った。


「高城選手、お疲れ様でした。ここ伊東は良質な温泉に恵まれ、気候も温暖、空気も澄んで、リハビリには絶好の環境です。都会の喧騒を離れて、心置きなくリハビリに専念して下さい。私たちも全力でサポ-トさせていただきます。」


「ありがとうございます。よろしくお願いします。」


院長の挨拶を受けて、翔平も丁寧に頭を下げた。そして翌日から本格的なリハビリが始まるはずだったのだが、この日は午前中に軽く運動した後は、サムライブル-の予選最終戦を手空きの職員や他のリハビリ患者たちと食堂で観戦。キックオフ早々に上げた先制点を懸命なディフェンスで守り切った日本が2勝1敗で見事、本戦入りを決めた。


勝利が決まった瞬間、食堂ではドッと歓声が上がり


「よかった、予選突破は最低限のノルマだからな。これでみんなもプレッシャ-から解放されて、これからノビノビやれるだろう。」


と嬉しそうに周りに感想を述べた翔平。彼自身、ここまでのサムライブル-の苦戦の原因が自分の不在にあると、気を病んでいただけに、ホッとした様子だった。


そしてリハビリが本格的に始まった。京王記念病院の松山トレ-ナ-は、翔平とは同年代で、優しく真摯に患者に寄り添うスタイルだったが、新たに担当になった梶原賢介(かじわらけんすけ)トレ-ナ-は40代半ばのベテランで


「じゃ、今日は10m歩いてもらいますから。」


「えっ、いきなりですか?」


「ええ。」


「では、スタ-ト。」


有無を言わさず指示を出し、歩き出した翔平がすぐに


「痛ぇ!」


と悲鳴を上げても


「そりゃ痛いでしょ。さ、続けて。」


と全く意に介さない。


(情け容赦ねぇな・・・。)


今まではもっとやりたいと言っても、むしろ止められることの方が多かっただけに、翔平は戸惑ったが


「翔平さ~ん、しっかり~。」


担当看護師、中川菜穂(なかがわなほ)の声援を受けて


「おぅ!」


といい格好して見せようと、頑張ってしまう。


「それでいいんです。今更ですけどリハビリは痛いです、痛くて当然なんです。でも、あんな可愛い子に応援されたら頑張れるでしょう。」


なんとかやり終え、苦痛に顔を歪める翔平に、梶原はそう言って、笑顔を見せた。