「違和感?」


「そう、当時の翔平は高校時代と違って、何人もの女性と浮名を流していた。彼がモテるのはわかっていたから、スタ-プレ-ヤ-になって、そこらへんは大人になって変わったのかなって思って、からかってみたら、『冗談じゃない。俺は何にも知らないのに、なんか勝手にマスコミが騒いでるだけだ。』って怒ってて。」


そう言って可笑しそうに笑った朱莉は、信号が変わったのを見て、また車をスタ-トさせる。


「実際に会ったり、食事をしたりしたのは事実らしいんだけど、それは取材だったり、複数人での会食だったり、まぁ中には相手にうまく利用されたり、マスコミにでっち上げられたりで、まぁ人のいいのに付けこまれて、いろいろ書かれてたっていうのが実情だったみたい。」


「そうだったんですか・・・。」


「だって、『俺には未来しかいない』って真顔で力説されちゃいましたからね。こっちは感心するやら呆れるやらで・・・でもさすがに困っているのはわかったから提案したんです。じゃ私と付き合っていることにすればって。ちゃんと彼女がいるってことになったら、女除けになるんじゃないって?」


「朱莉さん・・・。」


「そう、私たちは実は『偽恋人』『偽カップル』だったんです。」


サラリと言ってのける朱莉の横顔を、恵は思わず見つめる。


「提案した時、当然翔平は、『バカなことを・・・』って反対したけど、私にもメリットがあった。叔父は私を早く結婚させたがってた。いわゆる『政略結婚』っていうのものの駒に、私をしたかったの。こういう言い方をすると、いかにも叔父が酷い人間のように聞こえるかもしれないけど、実子である従姉弟たちとも分け隔てなく可愛がってくれたし。それこそ従姉弟たちは進学先から恋愛、結婚相手に到るまで厳しく口出しされてるけど、私には結構自由にさせてくれてた。それでも『天国の兄貴たちを早く安心させてやりたい』っていう言い方で、何回かお見合いもさせられて、でも私は当たり前だけど結婚相手くらい、自分で決めたかったし、仕事も面白くて、すぐには辞めたくはなかったから。従姉弟たちと違って、「恋人がいます」っていえば、それでもう無理強いはされなくなったから、本当にちょうどよかった。」


朱莉はそう言って笑った。