時計の針は朝の8時40分を指していた。


「それでは、本日もよろしくお願いします。」


朝礼を締める看護師長の言葉で、城南大学病院第二内科病棟ナースステ-ションの日勤業務がスタ-トした。


「おはようございます。」


その中の一員、藤牧未来(ふじまきみらい)は同僚の上田美由紀(うえだみゆき)に声を掛ける。これから勤務に入る未来とは逆に、夜勤明けの上田はまもなく勤務が終了する。彼女から受け持ち患者の状況等の申し送りを受け、そのまま連れ立ってステ-ションを出た未来は、患者たちへ勤務交代の挨拶をしながら、検温や点滴の残量チェック、更には申し送り事項の確認をして行く。


「じゃ未来、あとはよろしくね。」


それが終わって、ステ-ションに戻ると、上田は少しホッとした様子で未来に言う。


「はい、お疲れ様でした。」


そう答えた未来に、微笑んだ上田は、ステ-ションを後にした。その後ろ姿を見送ると、未来は改めて、各病室を廻り、担当患者のケアや処置を行っていく。本格的な午前中の業務がスタ-トだ。


未来の所属する第二内科は、肺がん、肺炎といった呼吸器系の疾患の治療に当たる病棟だ。幸いにも今の未来の受け持ちには、それほど重篤な状況の患者はいないが、だからと言って、当然気を緩めることも手を抜くことも出来る仕事ではない。


ADL(日常生活動作)の評価が低い患者のケアから行っていくのが基本になるが、その間にもナースコ-ルがあれば対応しなければならないので、慌ただしく時間が過ぎて行く。


そうこうして行くうちに、昼食タイムとなる。患者の配膳はもちろん、介助が必要な患者もいるので、その辺は同僚と打ち合わせて、自分達の休憩時間が被らないように調整をする必要がある。一般の企業のように、仲良い者と連れ立って、などということはまずありえない。


とは言っても、病院内の食堂に行けば、他病棟の知り合い、友人が誰かしらはいるもので、1人寂しくというパタ-ンはあまりない。