二海との読み合わせが始まり、物語の後半に差し掛かる。



「“本当のことを言うわ、アレックス。私はあなたが嫌い。大っ嫌いよ。なのに、あなたのことを忘れることなんて出来ないの。・・・私を、選んでくれる?”」



「“・・・俺だって大っ嫌いだっつーの。でも・・・俺のそばにいるのはお前がいい。ヒスイ。お前の人生を、俺にくれないか?”」



台本を見ながらではあるけど、掛け合いは上手くいっている。



この台本が甘酸っぱいセリフが多いせいで多少恥ずかしさもあるけど・・・何とか最後まで通すことが出来た。



まぁ、この後キスをするって流れなんだけど・・・その前に幕を下ろすってことになってる。



「あ゛ーっ・・・!!」



二海が台本から視線を外し、頭をかく。



心なしか頬が赤いような気もする。



そんな二海を見て、トクンと胸が音を立てた。



「・・・ド下手くそ」



「初めて通したんだから仕方ねぇだろ!?」



いたたまれない空気になってしまい、思わず悪態をついてしまう。



この雰囲気、告白されたあとのことを思い出しちゃうんだよな。



「人にはちゃんと覚えろとか言っておいて、自分が下手くそだと立つ瀬がないですよ〜」



「うるせぇ、これから成長すんだよ」



そう言って私の頬をつねる二海。



「ちょっほ、なにふんのよ」



“ちょっと、なにすんのよ”そう言ったはずなのに、頬を引っ張られているせいで上手く発音できない。



「なんて言ってるのか分かりませーん」



「てぇはなひてよ!!」



二海の手を振り払おうとするけど、振り払った方とは別の手で再び頬を引っ張られる。



「ちょっと頬つままれただけで聞き取れない言葉で喋ってるやつが人前で演劇なんてできるんですかぁ?」



「できふっていっへんへしょ!」



「喋れてねぇっつーの、バーカ」



“できるって言ってんでしょ”そう言ったつもりだったのに、全然伝わらない。



楽しそうに頬を引っ張る二海に、腹立たしさを感じながらも、無邪気な姿が可愛いとも思ってしまう。



前までなら腹立たしいとしか思わなかったはずなのに・・・最近、やっぱ変だ。