犬猿☆ラブコンフリクト


店内から外へ出てすぐのところに、日陰のベンチがあるのを見つける。



ここなら二海もすぐにわかるでしょ。



そう考えて、荷物を下ろして腰掛ける。



ちょっと持っただけでも結構重いな、荷物。



二海に荷物持ちお願いしてよかった。



そんなことを考えながら休んでいると、目の前にあった道路に黒い車が止まった。



中から人が降りてきて、私の方に真っ直ぐ向かってくる。



「あの、すみません。神社に行きたいんですけど、道、分かりますか?」



どうやら道に迷ったらしい、助手席から降りてきた人は、申し訳なさそうにしながら私に声をかけてきた。



「神社ならここの道真っ直ぐ行って、T字路を左に曲がればありますよ」



「僕、記憶力がないので出来れば道案内をして欲しいんですけど」



説明をしたけど、食い下がる男の人。



今の説明で大体の人は理解して帰っていくんだけどな。



「構いませんけど・・・私、人を待ってるのでその人に確認取ってきてもいいですか?」



「いえいえ、時間は取らせませんので」



そう言って、私の腕を掴む男の人。



力強く腕を握られ、ビクリと体が跳ねる。



腕をつかまれたことによって、脳が、体全身が、これはやばいと警笛を鳴らす。



「・・・スマホからのナビでもたどり着けると思うんですけど、なんで・・・私に聞いてきたんですか?」



恐る恐る問いかけた質問。



それに対する返答はなく、思いっきり引っ張られる。



「ちょっと・・・離して!」



抵抗しようにも、がっちりと掴まれた腕は振りほどけなくて、ズルズルと車の方に引きずられていく。



「やだっ!!離してってば!!離してっ!!」



体全体を使って抵抗するけど、両腕を掴まれてしまい振りほどけない。



周囲にいた人も、何事かと騒ぎ立てている。



「チッ・・・早くしろ!」



ドスの効いた言葉で完全に体が萎縮する。



これ、ガチでヤバいやつだ。



「──っ!!!辻本っ!!」



聞き慣れた声で呼ばれた名前。



声のした方に視線を向けると、スマホを耳に当てながらこちらに走ってくる二海の姿があった。



「チッ・・・!」



男は舌打ちしながら私の手を離して、車の中に乗り込み急発進してその場を立ち去った。



解放された腕には強く握られたせいもあって赤く跡が残っている。



二海が来てくれなかったら、どうなっていたか分からない。



そんな恐怖が、私の手足を震えさせた。