ボトルを作り終えて戻ると、試合形式の練習へと変わっていた。
二海はというと、ベンチに座って休んでいるようだった。
試合を見ているその横顔には、次々と汗が流れ落ちていた。
「はい、作ってきたよ」
「おう、サンキュ」
差し出したボトルを受け取るやいなや、フタを開けてごくごくと飲み始める二海。
それにしても、汗すごいな・・・まだ汗引かないの?
「アンタ、いつになったら汗引くわけ?代謝がいいにも程があるんじゃない?」
手元に持っていたタオルを、ボトルを飲んでいる二海の頭に被せるように乗せる。
その動きでピクリと反応した二海は、タオルを手に取りながらボトルから口を離した。
「・・・あ?ついさっきまで動いてたんだから汗かいてても当然だろ」
私の被せたタオルで顔を拭きながら答える二海。
「え?休んでたんじゃないの・・・?左手痛いんでしょ?」
「俺、“違和感がある”とは言ったけど“痛い”だなんて一言も言ってませーん。そんな違いも分からないんですかぁ?ホント、脳みそミジンコなやつは困りますなぁ」
プラプラと左手を動かしながらやれやれ、と煽ってくる二海。
せっかく心配してたのに・・・!とフツフツと怒りが湧いてきた。
「アンタねぇ・・・!人がせっかく心配してるってのに・・・!」
「残念でしたぁ!違和感はあるけど痛くはありませーん!」
「違和感も痛みも大して変わんないんだから大人しくしてればいいんじゃないんですかねぇ!!」
怒りに任せて声を張り上げると、タオルを頭から被って怖ぁい、とぶりっ子を始める二海。
その動きですら腹立たしく感じる。
だけど、元はと言えば私が巻き込んで怪我させちゃったわけだし・・・ここは引くしかないけど・・・。
もどかしさや苛立ちが一気に押し寄せてきて、キュッと手を握りしめながらうつむく。
無理・・・して欲しくないんだよな。
「・・・・・・ほーんの少しだけ違和感あるだけ。ホントに痛みはねぇから、心配すんな」
私の気持ちを汲み取ったのか、立ち上がった二海が優しい声色でポンっと頭に手をのせる。
「だ、誰も心配なんてしてない!」
二海の手を振り払いながら、ムキになって言い返す。
なんか、改まって言われると気恥しい・・・。
「お前、今“心配してる”って言っただろーが。ほんっとに単細胞だな。さっき言った言葉も忘れてんのかよ」
「うるっさいな!汗だく男!練習混ざるなら早く混ざりなよ!」
恥ずかしさを誤魔化すように、二海の言葉に強く言い返しながら背中を押して二海を見送った。



