「・・・文句があるなら私のじゃなくて由紀に見せてもらえばいいじゃん」
ため息まじりにそう呟くと、書き進めていた手を止めて顔を上げる二海。
少しだけ目を丸くしている彼と目があってしまい、思わずフイっと逸らしてしまう。
「!私も字は上手いとはいえないけど・・・それでもいいなら貸せるよ?」
「・・・あー・・・いや、いいよ。もうすぐ終わるし。それに──ほぼ無理やり奪い取るようにして借りた辻本にも悪いしな」
「!」
二海から発せられた意外な言葉に、驚きながら顔を上げる。
コイツでも“悪い”なんて思うんだ・・・。
てっきり、なんとも思ってないんだろうと思ってたのに。
「・・・へー・・・そっか!そろそろホームルーム始まるから、私席に戻るね。課題、頑張って」
「あぁ」
少し間を開けてからニコッと笑みを浮かべながら、席へと戻る由紀。
だけど、後ろをむく時に少しだけ眉間に皺を寄せているようにも見えた気がして・・・。
最近、由紀の表情おかしいけど・・・やっぱり、きのせいじゃ・・・ないよね。
二海が再び課題と向き合ってシャープペンを滑らせている姿を見ながら、そんなことを考える。
「・・・ていうか、私に悪いと思ってんなら文句のひとつも言わずに進めたらいいのに。ほんと、性格ひん曲がってるよね」
椅子に座り直して頬杖をつきながら課題と向き合う二海の横顔を睨みつける。
だけど、彼は私の方を向くことはない。
私の課題と自分の課題を交互に見ながら手を動かしていた。
「自分に正直で嘘がつけない性格なんだよ」
「あっそ、物は言いようって訳」
二海から視線を外しながら前を見る。
変に絡んでもまた罵詈雑言が返ってくるだろうし、コイツの課題の写しが終わるまで待とう。
「あっ、やべ!!!オレ、ジャージ持ってくんの忘れたー!!他の組のやつから借りねぇと!!」
そう考えていたんだけど、前の席の男子の発言でふと我に返った。
そういえば、昨日二海に借りたTシャツ・・・返さなきゃ。
そう思い立って、椅子に座りながら前傾姿勢になって、机の脇に下げていたバックの中から紙袋を探す。
ガサゴソと荷物をかき分けて袋を取りだし、体を起こそうとした、その時──
「おい、これありがとな──」
ゴッ・・・!
「いった・・・」
頭に何かがぶつかったようで、鈍い痛みが頭頂部に走る。
頭を抑えながら何にぶつかったのかを確認しようとすると・・・。
「あ・・・悪ぃ」
二海が課題の写しを終えて私の方に課題を手渡そうとしていたようで、その手に私がぶつかってしまったらしい。
驚いたような反応と謝罪・・・どうやら、二海は故意にやったわけじゃ無さそうだ。
「いや・・・大丈夫」
体勢をなおして、二海からさしだされていた課題を受け取る。
「あとこれ、ありがとう。・・・昨日借りたシャツ、洗ってあるから」
「・・・あぁ。こっちこそ、課題サンキュな」
私が差し出した紙袋を見てピクッと反応した二海は、課題のお礼をしながら私の差し出した紙袋を手に取った。



