「んー・・・!終わったぁ!!」
由紀から借りた課題に目を通しながら、一通り書き写し終えた私は、シャープペンを片手に背伸びをした。
「ずいぶん早いね、まだまだ時間余裕あるよ」
「あはは、速筆に慣れてきたからかな。これ、ありがとう」
頬杖をつきながら私が書き終わるのを待っていた由紀に課題のプリントを渡す。
それを受け取った由紀は、チラリと廊下の方を見る。
つられるようにして私も同じ方向をむくと、二海が焦り気味に席に向かっているのがわかった。
「おはよう、二海くん。どうしたの?」
「三島、はよ。課題途中で寝落ちたの忘れてたんだよ」
由紀の言葉にそう返しながら、いそいそと荷物を下ろして課題を取り出す。
確かに、前半の方には文字が書かれているけど後半にかけては空欄が並んでいた。
「二海、それ間に合うの?ほとんど書いてないじゃん」
「まだホームルームの時間あるから平気だろ。お前と違って俺書くの早ぇから」
そう言いながら私の机の上にあった課題をヒョイっと奪い取る。
突然の事でよく分からなかったけど、どうやら私の課題を見ながら書くようだ。
「ちょっ・・・勝手にうつそうとしないでよ・・・!」
「お前だって三島に見せてもらってただろ」
奪われた課題を取り返そうとするけど、ヒョイっとかわされてしまい取り返せなかった。
二海は、奪った課題に目を通し始める。
「うっわ、字下手クソだな。古代文字かよ」
「はぁ!?」
カァァッと羞恥心やら怒りが湧き上がり、ガタッと立ち上がってしまう。
「人の勝手に見といて下手クソはないじゃない!!アンタの字だって似たようなもんでしょ!?」
「残念でしたぁ。俺は割と綺麗な部類ですぅ〜」
そう言いながら、席に座り直してシャープペンシルを動かし始める二海。
「うわ、このミミズみたいな字あるし。こりゃ、先生も苦労するな」
書いてる間も読みにくいだの字が下手だのと呟いている。
文句があるなら見るなよ・・・そう思いながらも、スラスラと詰まることなく書き進めていくのを見て、とあることに気が付く。
字が汚いって言いながら読めてんじゃん・・・!
これ、絶対借りる相手が由紀だったら何も言わないんでしょ。
昨日も、由紀には何も言わなかったもんね。



